2006年のアカデミー賞短編アニメーション賞候補になったシェーン・アッカー監督の『9』を、ティム・バートン製作で長編にリメイクしたもの。人類が滅んだあとの地球で、小さな人形たちがビーストと呼ばれる巨大なメカモンスターと戦う様子を描く。オリジナルの短編はYouTubeなどで見ることができるが、キャラクターデザインや世界観など基本的なコンセプトは変わっていない。大きな違いは登場する人形たちが台詞を喋るようになったこと。これによりキャラクター相互の関係性や、バックグラウンドとなる設定に奥行きと広がりが生まれた。声優陣は超豪華。主人公「9」を演じるのはイライジャ・ウッドで、他にもクリストファー・プラマー、マーティン・ランドー、ジョン・C・ライリー、ジェニファー・コネリーなど、ハリウッドのビッグネームがずらりと揃っている。
物語の中には人間がひとりも登場しないのだが、それでも登場キャラクターたちに感情移入してしまうのは、まず第一にストーリーの面白さ、第二にキャラクターの魅力があるからだ。ストーリーとキャラクターこそ物語の両輪。ストーリーについては「誰が何のために人形を作ったのか?」という謎(ミステリー)で物語を引っ張り、機械仕掛けのモンスター、ビーストたちとの戦いというサスペンスで物語を後押ししていく盤石の構成。キャラクターについては、ガラクタとボロ布を組み合わせたようなデザインがユニークで、しかも9人(9体?)の人形たちがそれぞれ個性的な姿をしているのがいい。(一組の双子がいるので、実際には8通りの個性だけど。)そこに一流俳優たちの声が当てられて、ボロ布でできた人形たちに生命が感じられるようになる。全体の世界観やビーストのデザインについては、宮崎駿やクエイ兄弟、ヤン・シュヴァンクマイエルなどの影響も感じられる。
短編ではビーストとの追いかけアクションが中心で世界の背後にある設定などは詳しく描かれていなかったのだが、長編では人形たちが作られた理由や彼らが生き続けなければならない理由が、あらゆる人間に共通の普遍的なテーマとして迫ってくる。人はなぜこの世界に誕生するのか。人はなぜ、生きることが困難なこの世界で生き続けなければならないのか。それは映画の中で人形たちが抱えている疑問と同じなのだ。別にこのテーマが描きたくてこの映画があるわけではないだろうが、こうしたテーマを持ち込むことで、映画の抱えている世界に厚みが生まれる。映画を観終わって一応のハッピーエンドにやれやれと胸をなで下ろしたとき、「いのちとは何だろう?」なんてことが胸の中に小さくわだかまっているなら、それはこの映画が単なる活劇ではないというひとつの証明になると思う。これはひょっとすると、アニメーションだからこそ描けるテーマかもしれない。アニメーションとは本来命のないものに、命を与えることができる数少ない仕事なのだ。
(原題:9)
DVD:9〈ナイン〉 9番目の奇妙な人形
DVD (Amazon.com):9 サントラCD:9 関連DVD:シェーン・アッカー監督 関連DVD:イライジャ・ウッド 関連DVD:クリストファー・プラマー 関連DVD:マーティン・ランドー 関連DVD:ジョン・C・ライリー 関連DVD:ジェニファー・コネリー |