ロード、ムービー

2009/10/22 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Screen 3)
おんぼろトラックで「映画」を運ぶ青年の奇想天外な冒険。
第22回東京国際映画祭コンペ作品。by K. Hattori

Roadmovie  ロードムービーというのは映画の形式のひとつで、主人公がある場所から別の場所へと空間的に移動していく中で、さまざまな人との出会いやドラマを盛り込んでいくというもの。『ロード・オブ・ザ・リング』や『幸福の黄色いハンカチ』は典型的なロードムービー。『スター・ウォーズ』の1作目(エピソード4)にもロードムービーの要素はあるし、『レインマン』や『テルマ&ルイーズ』『駅馬車』『オズの魔法使』『リトル・ミス・サンシャイン』などなど、洋の東西を問わず秀作や傑作を数多く生み出しているジャンルでもある。この形式は主人公が旅に出てさえしまえば、その後のエピソードの組み立ては割とルーズでも構わない。A―B―Cという順番に並んでいるエピソードが、A―C―Bという順序になろうと、あるいはA―D―B―Cという具合にエピソードが付け加えられようと、観客はあまり気にならないのだ。登場人物はエピソードごとに現れては消え、次のエピソードとの関係をあまり考えずに済む。もちろん中にはエピソードごとに緻密な伏線が張りめぐらされている作品もあるのだが、『オズの魔法使』でドロシーが出会うのが、カカシ、ブリキ男、ライオンの順番であろうと、ライオン、ブリキ男、カカシの順番であろうと、あまり重要じゃないでしょ?

 映画『ロード、ムービー』は文字通りのロードムービーで、ひとりの青年がおんぼろトラックを遠く離れた町まで陸送するというのがストリーの外枠。その間に青年がいろいろな人に出会い、いろいろな事件に巻き込まれていく。ロードムービーという形式はどんな話もある程度のまとまりに見せてしまうのだが、この映画はロードムービー形式のおかげで一定のまとまりを保ちながらも、その形式のルーズさがもろに映画のルーズさになっているように思う。青年が運ぶのが移動映画のための上映機材やフィルムで、彼が旅の途中で出会った人たちと行く先々で映画を上映していくという筋立ては、映画ファンの喜ぶ「映画についての映画」でもある。しかしこの映画は、最後まで観てもどうにも腑に落ちないのだ。

 それは主人公の青年が、旅を通して何を手に入れたのかがわからないからだろう。彼は旅を通して、親と和解する道を見つけただろうか? 自分の人生の目的を見つけただろうか? 生涯の伴侶や友に出会えただろうか? じつは何もわからない。彼はトラックを目的地まで届けると、それを相手に手渡して自分は何も持たずに元来た道を戻っていく。そこには青年の成長や変化を象徴する「何か」がないのだ。

 物語の底に流れるテーマは「水」なのだが、これも映画の中ではどんな機能を果たしているのかがよくわからなかった。主人公たちが映画を上映する塩の平原、水を求めて遠い距離を移動するジプシーたち、目的地に広がる広大な海。それぞれ明らかに関連があるのだろうが、どこかでそれが途切れていて真意がつかめない。

(原題:Road, Movie)

第22回東京国際映画祭 コンペティション
配給:未定
2009年|1時間37分|インド、アメリカ|カラー|シネスコ|サウンド
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=17
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ロード、ムービー
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