ヴィクトリア女王

世紀の愛

2009/10/01 ギャガ試写室
19世紀のイギリスに黄金時代を築いた女王の若き日々。
まるで少女マンガの世界! by K. Hattori

Young Victoria  19世紀に「ヴィクトリア朝時代」と呼ばれる黄金時代を作り上げた、イギリスのヴィクトリア女王の若き日々を描いた伝記映画。同じイギリス女王を主人公にした『エリザベス』と続編『エリザベス:ゴールデン・エイジ』も面白かったが、そちらは権謀術数渦巻く宮廷政治のドロドロと国際政治の荒波に揉まれた女王の波瀾万丈物語だった。それに対して『ヴィクトリア女王/世紀の愛』は、甘ったるい少女マンガの世界。しかしこれがじつに面白いし、甘ったるいラブストーリーの下には、「親からの自立」というしっかりと一本筋の通ったテーマが仕込まれている。人間はいかにして、子供時代を脱して大人になるのだろうか。人間はいつになったら、自分は一人前の大人になったと自信を持つことができるのだろうか。歴史ドラマではあっても、これはそんな普遍的テーマを抱えた作品。この映画を観て、ヒロインのヴィクトリアに自分自身を重ね合わせる女性は多いと思う。たとえ大帝国のお姫様でなくても、たとえ恋人が王子様でなくても、抱えている悩みや苦しみは似たようなものなのだ。

 伯父である先王ウィリアム4世に子供がなかったことから、幼い頃より次期王位継承者として宮殿の中で育てられたヴィクトリア。父亡き後、母であるケント公夫人は個人秘書のコンロイと組んで摂政の座を奪おうと躍起になっている。宮殿に出入りする政治家や諸外国の要人たちは、ヴィクトリアに取り入ってあわよくばその夫か愛人の座に収まり、政治的な力を手に入れようとしていた。ヴィクトリアの結婚を政治的に利用としていた人物のひとりが、ケント公夫人の弟でもあるベルギー国王レオポルト1世だ。彼はイギリスとの同盟関係をより強化するため、ヴィクトリアに甥のアルバート(ドイツのザクセン=コーブルク=ゴータ公国の第2王子)を引き合わせる。ふたりが結婚すれば、ベルギーの地位は安泰だ。そのためアルバートはヴィクトリアに取り入るため英語の特訓を受け、ヴィクトリアに合わせて音楽や文学の教養を身に着け、ダンスを習わされる羽目になる。ヴィクトリアにもアルバートにも、自由などというものはまったくなかった。彼らはチェスの駒。周囲の人間たちは、それぞれの利益のためだけに自分たちを利用しようとしているのだ。

 要するにヴィクトリアとアルバートは「政略結婚」させられたのだ。しかし映画は主人公たちふたりが、「政略結婚」の政治的な思惑を離れて本当の恋で結ばれ、新しい夫婦として自立していく様子を描いていく。大人たちの思惑に翻弄され続けた子供たちは、結婚することで自由を手に入れる。これは子供が大人になる通過儀礼の物語。その厳しい試練の中を、手に手を取ってくぐり抜けた若いカップルの物語だ。だがこの幸せは、永遠には続かなかった。その後のヴィクトリアについては、映画『クイーン・ヴィクトリア/至上の恋』が参考になるだろう。

(原題:The Young Victoria)

12月公開予定 Bunkamuraル・シネマ、TOHOシネマズ シャンテ
配給:ギャガ
2008年|1時間42分|イギリス、アメリカ|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://victoria.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ヴィクトリア女王/世紀の愛
サントラCD:Young Victoria
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