スペル

2009/09/30 ギャガ試写室
真面目な女性銀行員に逆恨みでジプシーの呪いが……。
サム・ライミ監督らしいホラー映画。by K. Hattori

Drag Me To Hell [Original Motion Picture Soundtrack]  銀行の融資窓口で働くクリスティンは、誠実な仕事ぶりが上司からも顧客からも評価されている真面目な銀行員。だがその日彼女のもとにやってきたガーナッシュ夫人は、今日で3度目のローン返済延長を求めている。クリスティンは上司と相談した上で、この延長申請を却下することにした。多少の心苦しさはあるが、銀行員としてはこれも大切な仕事。しかしガーナッシュ夫人はこの決定に憤慨し、仕事が終わったクリスティンを駐車場で待ち伏せして襲いかかる。別れ際に彼女が発したのは、謎めいた呪文のような言葉だった。クリスティンはガーナッシュ夫人から、恐ろしい死の呪いをかけられてしまったのだ。残された時間はあと3日間。その間に呪いを解かなければ、クリスティンは悪霊によって地獄に引き込まれてしまう。彼女は呪いを解いてもらうため、ガーナッシュ夫人の家を訪ねたのだが……。

 『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ最新作は、デビュー作『死霊のはらわた』を彷彿とさせるスーパー・ナチュラルなホラー映画。ごく普通の人間が些細なきっかけからジプシーの死の呪いをかけられてしまうという導入部は、スティーヴン・キングの「痩せゆく男」(映画もあるけど僕は未見)に似ている。たぶんライミ監督もそれは意識しているだろう。しかし呪いの描写に関しては、『スペル』の方がずっとパワフルだ。「痩せゆく男」の呪いは「食べても食べても痩せ続けていく」という、主人公から何かを少しずつ奪い取っていく形のもの。それに対して『スペル』の呪いは、地獄を抜け出した悪霊が向こうから襲いかかってくるのだ。悪霊はヒロインを突き飛ばし、投げ飛ばし、引きずり回す。「痩せゆく男」が長雨で増水した河川による床上浸水だとしたら、『スペル』に描かれている呪いはあらゆるものを飲み込み押し流していく土石流みたいなものだ。

 『死霊のはらわた』からライミ作品を観ている者からすれば、これはいかにもライミらしい、ライミにしか作れないホラー映画だ。主人公が大変なことになればなるほど、追い込まれれば追い込まれるほど、映画は恐怖を通り越して笑いに接近していく。こうした傾向は『ダークマン』や『キャプテン・スーパーマーケット』あたりで頂点に達してファンを大喜びさせたのだが、その後ライミは10年以上もこの路線を封印してしまった。じつは今回の『スペル』の脚本は、この封印期間の間に書かれているものだったらしい。ライミは10年以上もこの企画を寝かせておいたのだ。

 主演のアリソン・ローマンが醸し出す、いかにも幸薄そうなムードがとてもよい。恋人役のジャスティン・ロングも、誠実で清潔そうなお坊ちゃん役を好演。デヴィッド・ペイマーやアドリアナ・バラッザなど、小さな役まで実力派の俳優たちでしっかりとまとめる、地味だけれど贅沢なキャスティング。しかし今回の大注目は、ガーナッシュ夫人役のローナ・レイヴァーでしょう。

(原題:Drag Me to Hell)

11月6日公開予定 TOHOシネマズ日劇3ほか全国ロードショー
配給:ギャガ
2009年|1時間39分|アメリカ|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://spell.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:スペル
DVD (Amazon.com):Drag Me to Hell
サントラCD:Drag Me To Hell
関連DVD:サム・ライミ監督
関連DVD:アリソン・ローマン
関連DVD:ジャスティン・ロング
関連DVD:ローナ・レイヴァー
関連DVD:ディリープ・ラオ
関連DVD:デヴィッド・ペイマー
関連DVD:アドリアナ・バラッザ
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