海角七号

君想う、国境の南

2009/09/09 京橋テアトル試写室
台湾で歴代2位の大ヒットを記録した音楽映画。
ラストの「野ばら」には泣ける。by K. Hattori

海角七号 2枚組特別版(台湾盤) [DVD]  台湾最南端の小さな町・恒春(ハンチェン)。日本からアーティストを招いて行われる屋外コンサートの前座として、町民寄せ集めの急造バンドが作られる。ここにボーカルとして参加したのが、台北でミュージシャンになる夢に破れ、少し前から故郷恒春に戻っていた郵便配達員のアガ。日本側から通訳兼世話役の仕事を依頼されたのが、たまたま仕事でこの町を訪れていた日本人モデルの友子だった。コンサートまで時間がないというのに、新バンドはメンバーの技量も音楽的な方向性もバラバラでまるでまとまりというものがない。世話役を押しつけられた友子のイライラは、募るばかりだったのだが……。

 台湾で歴代第2位の大ヒットとなった音楽映画。この映画を上回るヒット作は『タイタニック』だけだというからすごい。基本的にはバンドの中でメンバー同士の葛藤があったり、メンバーの恋愛話がからんだりという、「バンドもの」としては至って普通の内容ではある。ただしこの映画は、物語の中に日本と台湾の係わりを大きく入れ込んでいる。台湾側がイベントに招くのは日本人のアーティスト(中孝介が本人役で出演して演奏と歌を披露)で、ヒロインは日本人で、さらに60年以上前の日本人教師(中孝介が一人二役)と台湾人少女の悲恋物語がからんでくるのだ。バンドで最高齢の月琴奏者は日本語世代で、気分が乗ると日本語でシューベルトの「野ばら」を歌ったりする。台湾で大ヒットしたことからこの映画は中国でも上映されたのだが、「植民地時代を感傷的に描きすぎている」などと批判されて多くのシーンが削除され、30分も短くなってしまったとか……。

 映画の中には日本統治時代に恋仲となり、日本敗戦で引き離される日本人教師と教え子の少女の悲恋物語が「出されることのなかった手紙」という形で挿入されていく。この手紙の宛先が「海角七号(岬7丁目)」という映画の題名の由来でもあるのだが、この手紙やラブストーリーが現代のバンドの話とまったくからんでこないというのが、この映画の不思議なところでもある。60年以上前のラブストーリーは、それだけで映画の基調となるムードを作りだしてはいるのだが、その物語は現代の物語と結びついていくわけではない。ふたつの時代のふたつのドラマは、別々の物語として並走していくのだ。つまりどちらからが主旋律になってもう一方がそれを支える伴奏になるのではなく、双方が別々のメロディを奏でながら並走していく対位法的な関係だ。

 しかしどこまでも平行線を走っていたふたつのドラマは、映画の最後にシューベルトの「野ばら」を通して合流していく。60年前のラブストーリーと現代のラブストーリーがひとつになり、台湾人バンドの演奏と日本人のアーティストの歌声がひとつに溶け合っていく。ここに映画的な感動がある。(黒澤明の『八月の狂詩曲(ラプソディー)』の記憶も……。)

(原題:海角七號 Cape No. 7)

2010年新春公開予定 シネスイッチ銀座、梅田ガーデンシネマほか全国順次公開
配給:ザジ・フィルムズ、マクザム 宣伝:ザジ・フィルムズ
2008年|2時間10分|台湾|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.kaikaku7.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:海角七号/君想う、国境の南
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