ファイティング・シェフ

美食オリンピックへの道

2009/07/29 映画美学校第2試写室
フランス料理のオリンピック、ボキューズ・ドールの裏側。
ひとりのシェフの果敢な挑戦を追う。by K. Hattori

The Chicken, the Fish and the King Crab ( El Pollo, el pez y el cangrejo real ) [ NON-USA FORMAT, PAL, Reg.2 Import - Spain ]  フランス料理の世界で現在もっとも権威ある国際コンテストとされているのが、2年に1度フランスのリヨンで行われる「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」だ。1970年代にヌーヴェル・キュイジーヌでフランス料理の世界に革命を起こし、今もなお健在でフランス料理界のトップに君臨する伝説の料理人ポール・ボキューズ。その呼びかけでこのコンテストが始まったのは1987年。国際食品見本市のイベントとして開催されたコンテストだったが、第1回目から「世界一の料理人」の地位に世界の注目が集まるようになった。現在世界各地の予選は本選の数ヶ月前に行われているが、そこではその地域の一流シェフたちが熾烈な戦いを繰り広げる。しかしひとたび代表者が決まると、予選のライバルたちは一致団結して代表シェフを応援する作戦参謀たちに変わるのだ。戦うのはひとりのシェフだが、その背後にいる大勢のシェフたちがアイデアを出し、意見を述べ、代表を背後から支え後押しする。

 映画は2007年のコンテストに向けて準備を進めるスペイン代表シェフ、ヘスース・アルマグロの奮闘ぶりを長期取材している。本番と同じ食材を使い、本番と同じ時間制限の中で作った試作品を、応援シェフたちを招いてた試食会で振る舞い意見を求めるのだが、ここで他のシェフたちが猛烈なダメ出しをするのに驚いてしまった。「味が薄い」「見た目が悪い」「まとまりがない」「調理時間が正確じゃない」など、好き勝手に言いたい放題なのだ。自慢の料理が完成した手応えを感じて、胸を張って厨房を出てきた代表のヘスースが、自分より先輩たちの情け容赦ない指摘にあれこれ言い訳してしどろもどろになり、やがて押し黙ってしまう様子は哀れですらある。ほとんどイジメ。これを職場でやったらパワハラで訴えられちゃうよ。映画のためのインタビューに答えて、「帰りの車の中で何度も泣いた」と本人が告白しているが、これだけケチョンケチョンにやっつけられたらそりゃ泣くよ。

 しかし泣き言をいっても仕方がない。翌週の試食会に備えて、新たなアイデアを出し、試作を試み、シェフたちから少しでも好意的なコメントを引き出す工夫と努力をしなければならない。ところが試食会を何度開いても、ダメ出しは続くのだ。特別コーチとして招かれた前年度優勝のフランス人シェフは、「レストランで出すならこれでいい」「でもコンテストの料理はレストランの料理とは違う」とスペイン代表の意識改革を求めていく。コンテストに出場するシェフたちの料理は、そもそも美味しくて当たり前。コンテストで勝つためには「見た目」の工夫が必要になる。見た目こそが、コンテストの勝敗を分けるのだ!

 見た目が勝負とは、なんと映画向けの素材だろうか! 主人公が優勝候補筆頭の料理の盛りつけを見て、あまりの見事さに言葉を失うシーンはこの映画のクライマックスだ。

(原題:El pollo, el pez y el cangrejo real)

10月公開予定 TOHOシネマズ シャンテ
配給:メディアファクトリー 宣伝:ムヴィオラ
2008年|1時間26分|スペイン|カラー|ヴィスタ|SRD
関連ホームページ:http://bishoku-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ファイティング・シェフ/美食オリンピックへの道
関連DVD:ホセ・ルイス・ロペス・リナレス監督
関連書籍:ポール・ボキューズ関連
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