映像詩

里山

2009/07/01 GAGA試写室
里山での人と自然の関係を長期取材したドキュメンタリー。
NHKの人気シリーズを劇場公開。by K. Hattori

Satoyama 2008年にNHKで放送された「ハイビジョン特集 里山 いのち萌ゆる森〜今森光彦と見つめる雑木林〜」を再編集し、劇場公開用に仕立て直したドキュメンタリー映画。もとになったテレビ・ドキュメンタリーはこれが3作目で、1作目は1998年放送だからもう10年以上の歴史を持っている。1作ごとに数年の取材期間をかける丁寧な作りは、「みなさまからの受信料で成り立っているNHK」の面目躍如。民放ではないNHKに「採算」という考えはないかもしれないが、少人数のスタッフで撮影を行っているにしたって、これはかけた時間分だけの制作コストがかかっている。その贅沢な作りは映像を見ればわかる。演出家の意図などお構いなしに変化してゆく自然の風景から、見る人をうならせるフォトジェニックな瞬間を一瞬だけ切り取るために、いったいどれだけの時間カメラを回し続けていたのだろうか。

 「テレビ番組の映画版なんて!」とバカにしたもんでもない。日本でも劇場で大ヒットした『ディープ・ブルー』や『アース』だって、もともとはBBCやNHKで放送したテレビ・ドキュメンタリーなのだ。テレビがハイビジョンに対応して画質が高精細になれば、もはや撮影素材レベルでテレビと映画の違いは存在しなくなる。「テレビ番組の劇場版」は今後もますます増えるだろう。劇場の大画面には、テレビでは味わえない臨場感と迫力がある。今回の『映像詩 里山』がそれを十分に生かしていたかは議論の余地もありそうだが、おそらく映画では何気なく見逃してしまいそうな俯瞰撮影の大ロングショットなどは、大画面で見ると惚れ惚れと見とれてしまうような絶景だったりする。テレビも大画面化していることだし、今後のテレビドキュメンタリーは大画面での鑑賞を前提にしたシーンが増えていくかもしれない。

 今回の作品に話を戻す。取材はひとつの雑木林を中心に、里山の四季を描写していく。雑木林は手つかずの森ではなく、人間の管理が行き届いた人工的な森なのだという事実に、まずは驚かされてしまった。雑木林の木々は年に1回決まった量を伐採され、かつては炭焼きに、現在はシイタケ栽培のための「ほた木」として利用されている。一定の長さに切り揃えたほた木に、シイタケのたね駒を打ち込んでいく音は、里山に春を告げる風物詩になっている。雑木林のクヌギやコナラは伐採で一度丸裸にされてしまうのだが、残された幹の根本ひこばえという若い芽が伸びて、15年ぐらいかけてまたもとのような太い幹に成長していくという。つまり毎年森の15分の1ぐらいを伐採していれば、雑木林は枯渇することなく豊かな恵を人間たちに与え続ける。これが千年以上に渡って続く、森と人間との共生のサイクルなのだ。雑木林のシイタケ栽培と並行して、昆虫(ミツバチやカブトムシ)や動物たち(イノシシ、キツネ、タヌキ、野鳥たち)と人間の係わりも描かれていく。豊かな里山は、日本の財産だと思う。

8月22日公開予定 新宿ピカデリー、東劇
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 宣伝:GAGA.NP
宣伝問い合わせ:アニープラネット、ギャガ・コミュニケーションズ宣伝部
2009年|1時間30分|日本|カラー|ハイビジョン
関連ホームページ:http://satoyama.gyao.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:映像詩 里山シリーズ
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