未来の食卓

2009/05/29 映画美学校第1試写室
石油と化学薬品に依存する現代人の食生活は破綻している。
破滅回避の道はオーガニックにある。by K. Hattori

 丘陵地帯にブドウや桃の畑が広がる、南フランス・バルジャック村の農村風景。この村の学校では2006年9月の新学期から、給食をすべてオーガニックにする取り組みが行われている。食材はすべて無農薬有機農法のものばかり。周囲に農家の多いこの地域では農薬や化学肥料を使った一般農家の方が多く、オーガニック給食への風当たりも強い。「オーガニックで安全な給食だなんて、それは一般農法で作った作物が危険だとでも言うのか?」というわけだ。それでも村長をはじめとするオーガニック推進派は専門家を招いた説明会などを何度も開き、地域の理解を深めていく。じつは一般農法の危険性を最も知っているのは、農薬や化学肥料に日常的に接している農家の人たち自身なのだ……。

 原題は『子供たちは、私たちを訴える』という意味。それを『未来の食卓』という邦題にしたセンスはなかなかのものだが、このドキュメンタリー映画が持つ強力なメッセージ性は原題の方が巧みに言い表しているかもしれない。ここに描かれているのは、効率性や経済性を重視して工業化され規格化された現代の食生活が、人間を不健康にしているという現実だ。

 オーガニックだの自然食だのというのは、多分に趣味的なものだろうという思い込みが僕の中にはあった。オーガニックは値段の高い贅沢品。水にこだわったり塩にこだわったりするのも、無農薬有機農法の食品にこだわるのも、食物の陰陽バランスを主張するマクロビオティックも、好きな人はどうぞご勝手にどうぞ。でも僕はそこまでこだわらない。毒入りギョウザや冷凍ホウレンソウの残留農薬、そして狂牛病騒ぎ、産地偽装や賞味期限改竄など、食の安全性や信頼性を脅かす問題はそれとはまったく別問題。少なくとも国の安全基準に従ってちゃんとそれなりの管理が為されていれば、食品に関してそれほど神経質にならずとも……というのが僕のこれまでの考えだった。でも、やっぱりそれは、考え方としてちょっと甘いのかもしれない……とも思う。そうした考えに人を揺り動かす力が、この映画にはある。

 映画にはユニセフの会議で世界中の学者たちが集まって食の危機的状況について語り合うシーンが挿入されているのだが、こうした発表が仮に話半分に受け入れるにしても、いや話を四分の一にまで軽く見積もったとしても、ここで語られている内容はとんでもないことだと思う。地球温暖化は確かに大変なことだろう。でもひょっとすると食の安全の方が、それよりずっと切迫した問題なのではないか?

 温暖化対策に対する関心の半分でも、食の問題に人々が関心を向ければ世の中は大きく変わるだろう。でもマスコミはそれをあまり積極的には取り上げない。新聞も雑誌もテレビも、食品メーカーは大口のスポンサーだからだろうか。バルジャック村のような試みが、今後日本でも広がっていくといいんだけど……。

(原題:Nos enfants nous accuseront)

夏公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:アップリンク
2008年|1時間52分|フランス|カラー|1:1.66|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:未来の食卓
関連DVD:ジャン=ポール・ジョー監督
ホームページ
ホームページへ