真夏の夜の夢

2009/05/29 松竹試写室
森の精霊キジムンが巻き起こした恋のドタバタ騒ぎ。
シェイクスピアの戯曲を現代沖縄に翻案。by K. Hattori

 シェイクスピアの喜劇「真夏の夜の夢(夏の夜の夢)」を、『ナビィの恋』や『ホテル・ハイビスカス』の中江裕司監督が映画化。ただし物語の舞台はアテネ近郊の森の中から、現代の沖縄に移されているし、人物の設定なども少しずつ異なり、物語の後半になるとシェイクスピアの原作からはずいぶんと離れていく。

 妻のいる恋人との実らぬ恋をあきらめて、故郷の世嘉冨(ゆがふ)島に戻ってきたゆり子。島は村長の息子の結婚式準備で大いに盛り上がっており、ゆり子も幼なじみたちに誘われ、式の余興で上演される劇に出演することになる。だが島で彼女を待っていたのは幼なじみたちだけではなかった。かつてゆり子と友だちになった、森の精霊キジムンの子供マジルーが、彼女の帰りを待ちわびていたのだ。だがゆり子を追って、東京から恋人の敦がやってくる。その敦を追い掛けて、彼の妻・梨花も島に乗り込んでくる。この自体を解決する秘策は、キジムン伝統の惚れ薬。マジルーの画策で梨花と島の男を相思相愛にさせたまでは良かったが、敦はゆり子ではなく梨花に惚れ込んでしまったから大変なことに……。

 この映画は森の精霊(キジムン)と人間の濃密な交流を描いている点ではシェイクスピアと同じなのだが、そのような交流がもはや沖縄ですら成立しなくなっている現実を描く、残酷で寂しい物語でもある。キジムンたちは今まさに滅びようとしている。人間たちがキジムンを信じなくなったら、用済みになったキジムンはこの世に生きていられないのだ。マジルーはキジムンたちがこの世界に残す最後の希望。マジルーとゆり子の交流の先に、かつて沖縄の島々にあったようなキジムンと人間の濃密な関係性が再生されるだろうか?

 ここ10数年、沖縄は観光ブームだ。本土からの移住者も増えている。しかしそんなブームよりずっと前から沖縄に移住した中江監督は、最近の沖縄ブームでむしろ沖縄本来の「沖縄らしさ」が失われていくことを危惧しているのではないだろうか。観光客や新たな移住者が求めるのは風光明媚な観光地としての沖縄であって、沖縄の文化や精神性に交わっていこうという気持ちはさらさらない。一方沖縄にもともと暮らしていた人々は、沖縄を離れて本土に流出していく。監督はそんな消えゆく「沖縄の精神」を、キジムンという精霊に託している。沖縄の精霊こそ沖縄の精神の象徴、オキナワン・スピリッツ!なのだ。

 中江監督によれば、沖縄でお年寄りに「キジムン見たことあるね?」と聞くと、「あるよ。戦前はそこにいっぱいいたよ」と当たり前のように答えが返ってくるのだとか。戦争で沖縄はズタズタに切り裂かれ、キジムンたちもずいぶんと減った。そして昨今の沖縄ブームの結果、残り少ないキジムンたちはもう絶滅寸前にまで追い込まれている。でも大丈夫。この映画を観た人なら、きっと沖縄の風景の向こう側にキジムンたちの姿を見つけられるようになるさ!

7月25日公開予定 シネカノン有楽町二丁目、シネマート新宿ほか
7月18日より那覇・桜坂劇場、リウボウホールにて先行ロードショー
配給:オフィス・シロウズ、シネカノン、パナリ本舗
配給問い合わせ:オフィス・シロウズ 宣伝問い合わせ:グアパ・グアポ
2009年|1時間45分|日本|カラー|ヴィスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.natsu-yume.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連DVD:真夏の夜の夢
原作:夏の夜の夢(シェイクスピア)
ノベライズ:さんかく山のマジルー―真夏の夜の夢(中江裕司)
エンディングテーマCD:愛の奇跡(藤澤ノリマサ)
関連DVD:中江裕司監督
関連DVD:柴本幸
関連DVD:蔵下穂波
ホームページ
ホームページへ