希望ヶ丘夫婦戦争

2009/05/21 TCC試写室
実相寺昭雄の小説をさとう珠緒と宮川一朗太主演で映画化。
男女の性幻想を巡るブラック・コメディ。by K. Hattori

 「ウルトラマン」シリーズや映画『帝都物語』で知られる実相寺昭雄監督は、映像製作以外に文筆家としての顔も持っていた。本作は彼が1970年代に発表した同名短編小説を原作とした作品で、1979年にもにっかつ(日活)で一度映画化されている。僕自身は原作未読で前作も観ていないのだが、今回の映画は風水ブームやフィギュアといった現代的要素もかなり入っているので、おそらく原作をかなりアレンジしているのだと思う。

 食品会社に勤める猫田千吉は、妻の弘子とふたりで郊外の住宅地に暮らしている。仲の良い夫婦だが、目下の悩みは夫の千吉がEDになって夫婦生活が営めないこと。前に務めていた会社をセクハラの濡れ衣で退社させられ転職して以来のことだ。しかし弘子はそれを、とりあえずは長い目で見守るしかないと考えていた。ところがある日、夫婦の寝室に小さなカビが発生したことから、話はややこしい方向に向かう。風水に詳しいという近所の主婦に見てもらったところ、猫田夫婦には重大な危機が発生していることが判明。「子供を作れば幸せになれる」と言われた弘子は前にも増して夫に夜の営みを求めるようになり、それがますます千吉の意識を萎えさせることに……。ところが千吉は妻にはピクリとも反応しない自分の分身が、会社のお色気秘書・貞江には反応することに気がついた……。

 セックスを巡る皮肉で残酷なコメディだが、性描写そのものはマイルド。それによって人間ドラマの部分が前面に出てくるという効果はあるのだが、全体としてメリハリのない彫りの浅い作品になっているのも事実だろう。セックスを通して人間を描こうとしながら、セックスそのものを映画から排除してしまった脚本には疑問がある。主演のさとう珠緒にセックスシーンを演じさせられないという事情があったのかもしれないが、それなら周囲のご近所さんのそれを濃厚に描くことで、主人公夫婦のセックスレス状態をより強調するという方法もあったはずなのだ。

 あるいは終盤のクライマックスとなる千吉とダッチワイフのからみを、より濃厚に描いてもよかった。このシーンはどのみち「幻想」だということが映画の中で明らかになっているのだから、「幻想としてのセックス」をしつこくコッテリ描くことはできたはず。そうすることで夫婦が共有した「幻想」と「現実」とのギャップが、よりショッキングなものになっただろう。

 性にフィクショナルな幻想を求める男の姿勢と、ひたすら即物的な肉体のみを求める女性の姿勢の対比は面白い。一般的に男性は恋愛にセックスを求め、女性は恋愛にロマンチックな物語性を求めると思われがちだが、夫婦になるとその関係が逆転するということだろうか。「風水」などで一応の脚色はしているようだが、女性の方が男性よりずっとリアルな現実を生きている。それだけに、リアルな世界が綻びたときの衝撃は大きいということなのかも。

6月13日公開予定 ユーロスペース
配給:バイオタイド 宣伝協力:太秦
2009年|1時間28分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.kibougaoka-war.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:希望ヶ丘夫婦戦争
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