レスラー

2009/05/18 松竹試写室
ミッキー・ローク入魂の演技がドラマに異様な迫力を生む。
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。by K. Hattori

The Wrestler  ランディ“ザ・ラム”ロビンソンは、80年代のプロレスファンなら誰もが知る人気レスラー。大きな会場で何万人ものファンを熱狂させ、試合はアメリカ中に放送された。ファン雑誌の表紙やスポーツ紙の1面を何度も飾り、アクションフィギュアまで発売されていたのだ。だがそれから20年後、全盛期を過ぎたランディはスーパーでバイトをしながら、週末は小さな会場を回って試合をするどさ回りの日々。体はあちこちガタガタだし、目も耳も悪くなっている。今ではどの会場に行っても、参加するレスラーたちの中でランディが最年長だ。それでもプロレスから離れられないランディだったが、いよいよプロレス人生から足を洗う日がやってくる。試合後に心臓発作を起こし、医者から「プロレスは無理」と宣告されたのだ。ランディは引退を決意し、第二の人生を模索し始めるのだが……。

 1980年代にキャリアの絶頂期を迎えたものの、90年代以降は鳴かず飛ばずで今に至っているという中年プロレスラーを、同じく1980年代にキャリアの絶頂期を迎えて90年代以降は鳴かず飛ばずのまま今に至ったミッキー・ロークが演じている映画だ。ミッキー・ロークにはこの映画以前に『シン・シティ』での主演があるが、それは3話オムニバスの中の1話であり、長編映画への完全復帰は今回の『レスラー』が本当に久しぶりだと思う。ダーレン・アロノフスキー監督はスタジオが主演にニコラス・ケイジを求めたのを拒み、ミッキー・ロークの起用にこだわったという。結果としてはこれが大当たり。普通こうした話を聞くと「あの俳優がこの役を演じたらどうなるだろうか?」などと想像するし想像できるものなのだが、この映画に関してはニコラス・ケイジが演じるランディなんてまったく想像できない。映画の中ではランディという役とミッキー・ロークが完全に一体になってしまい、もはや両者を分けることができない完璧なキャラクターになってしまっているのだ。

 不器用な男がやくざな稼業から足を洗い、平和で穏やかな第二の人生を送ろうと決意するが、結局は元の稼業に引き戻されてしまうという、高倉健主演の「東映やくざ映画」みたいな筋立て。しかしここには仲間への忠義立てもなければ、対立組織の挑発もない。主人公は結局自分の意思で、自分の生きる場所(死に場所)としてリングを選ぶのだ。これは高倉健の映画ではなく、むしろ金子正次の『竜二』だ。自分が本当に輝ける場所を求めて、主人公は古巣へと舞い戻る。

 映画の中に描かれているプロレス興行の舞台裏やどさ回りレスラーの生活ぶりは、日本でも公開されたドキュメンタリー映画『ビヨンド・ザ・マット』と重なり合うところが多い。おそらく『レスラー』の製作者たちもこのドキュメンタリーを観たのだろう。『ビヨンド・ザ・マット』を観てから『レスラー』を観れば、そこに描かれている世界が「作り物ではない本物」だとわかるはずだ。

(原題:The Wrestler)

6月13日公開予定 シネマライズ、TOHOシネマズシャンテ、シネ・リーブル池袋
配給:日活 宣伝:P2、日活
2008年|1時間49分|アメリカ、フランス|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.wrestler.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:レスラー
DVD (Amazon.com):The Wrestler
サントラCD:The Wrestler
主題歌収録CD:ワーキング・オン・ア・ドリーム(ブルース・スプリングスティーン)
関連DVD:ビヨンド・ザ・マット(1999)
関連DVD:ダーレン・アロノフスキー監督
関連DVD:ミッキー・ローク
関連DVD:マリサ・トメイ
DVD:エヴァン・レイチェル・ウッド
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