彼女の名はサビーヌ

2008/12/12 映画美学校第1試写室
フランスの女優サンドリーヌ・ボネールの初監督作。
家族の愛を描いたドキュメンタリー映画。by K. Hattori

Her Name Is Sabine (Sub) [DVD] [Import]  サンドリーヌ・ボネールは日本でもよく知られているフランスの美人女優だ。80年代から作品が日本に紹介されているが、代表作はアニエス・ヴァルダの『冬の旅』、パトリス・ルコントの『仕立て屋の恋』、ジャック・リヴェットの『ジャンヌ』二部作、レジス・ヴァルニエの『イースト/ウエスト・はるかなる祖国』など多数。そんな彼女が、初めて長編映画を監督した。有名俳優が映画監督の真似事をする例はそれほど珍しくもないし、中には本格的な監督として一流の作品を作る人もいる。だがボネールが撮ったのはドキュメンタリー映画。それも彼女自身の家族、サビーヌという自閉症の妹を取材したドキュメンタリー映画だった。

 サビーヌはサンドリーヌの1歳年下の妹。フランスきっての美人女優の妹だから、若い頃のサビーヌはアイドルタレントのような美少女だ。しかし現在の彼女に、その面影はもはやない。精神病院に5年間入院させられた彼女は、その間にぶくぶくと太り、退院したときは目の焦点も定まらぬままヨダレを垂れ流し、怯えたように背を丸めて奇声を上げるだけの廃人になっていた。美しかったサビーヌは、なぜこんな姿にさせられてしまったのだろうか? 家族と共に遠くまで旅行し、パーティでピアノを弾きながら歌い、海辺で波とたわむれて砂浜を駆け回り、家族や友人たちに屈託なく笑いかけたサビーヌの姿はもはや存在しない。映画はサンドリーヌが撮った過去のホームビデオの映像と、現在のサビーヌの姿を交互に紹介しながら進行していく。

 映画は精神病院を出て開放型の新しい施設で少しずつ心身を回復させていくサビーヌを追いながら、サンドリーヌたち家族がなぜ彼女を精神病院に入院させざるを得なかったのかを説き明かしていく。そこから浮かび上がってくるのは、自閉症にまつわるフランス国内での医療体制の遅れだ。そもそも自閉症がどんな病気なのかを知る医療関係者が少ない。医者にわからないものが、家族にわかるはずがない。精神的に不安定になり、かんしゃくを起こして家族に暴力を振るうサビーヌを、家族は支え続けることができなかった。しかしそれは、彼女を精神病院で廃人にしてしまったことの言い訳にはならないだろう。少しずつ回復しているとはいえ、5年の入院生活でサビーヌの体は損なわれ、いくつかの機能は今後も永久に取り戻せないかもしれないのだ。

 映画の中で最も劇的なのは、サビーヌが姉の与えてくれたDVDを通して、かつての元気だった頃の自分自身を振り返るシーンだ。テレビ画面の中の若く美しい自分自身の姿を見て、サビーヌは悲鳴を上げて泣き出してしまう。「辛いならやめるわよ」と言う姉に、サビーヌは「そうじゃないの。嬉しいの」と答え、涙を流しながら寂しそうに微笑むのだ。家族も辛いが、一番辛いのはサビーヌ本人なのだ。変わり果てた現在のサビーヌの中には、今も若く溌剌としていた頃のサビーヌが閉じこめられている。

(原題:Elle s'appelle Sabine)

2月14日公開予定 渋谷アップリンクほか全国順次ロードショー
配給:アップリンク
2007年|1時間25分|フランス|カラー|1:1.66
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/sabine/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:彼女の名はサビーヌ
DVD:Her Name Is Sabine
関連DVD:サンドリーヌ・ボネール監督
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