懺悔

2008/12/02 松竹試写室
スターリン時代の大粛清を寓話として再現した作品。
製作から24年たってようやく日本公開。by K. Hattori

 グルジアのとある町で、長年市長として人々に敬愛されてきた男が死んだ。彼の名はヴァルラム・アラヴィゼ。同志であり、親友であり、精神的な父親でもあったヴァルラムの死を、人々は大きな悲しみと共に受け止める。葬儀は盛大に行われ、遺体は町の墓地に葬られた。だがその翌朝、ヴァルラムの息子アベルは妻の悲鳴でベッドから飛び起きる。妻の指差す先には父の遺体。何者かが墓から遺体を掘り返して、わざわざ庭先に置いていったのだ。家族は改めて遺体を墓に埋め戻すが、そのたびに2度、3度と遺体は掘り返されて庭先に戻ってくる。犯人は何の目的があって、こんなたちの悪いイタズラをするのだろうか? その後、警察や近所の人たちと墓で寝ずの番をしていたヴァルラムの孫が、ついに犯人を捕らえる。墓荒らしの犯人は町で暮らすケテヴァンという中年の女性。やがて裁判が始まると、彼女は自分自身の過去とヴァルラムの係わりについて語り始める。

 スターリン時代にソ連で起きた大粛清をテーマにした映画。旧ソビエト時代の1984年に製作されたものの、内容が物議を醸して一般に公開される間もなく封印されてしまう。2年後の86年10月にグルジアのトビリシ限定で一般公開され、翌年以降ようやく全国レベルでの公開にこぎ着けた。モスクワでは最初の10日間だけで70万人を動員する大ヒットとなり、一種の社会現象にまでなったという。カンヌ映画祭では審査員特別大賞を受賞するなど国際的な評価も高かった作品だが、海外向けの配給権をアメリカの配給会社が独占してしまい、日本ではこれまでその評判が伝わっては来ることはあっても、映画そのものを観る機会はほとんどなかった。今から16年前の1992年に、岩波ホールの「自由と人間」国際映画週間のオープニング作品として1度だけ特別上映される機会があったというが、その後は幻の作品となっていた。今回ザジフィルムズの配給でようやく日本での一般公開が実現したわけだが、製作から25年、なんと四半世紀たっての日本公開となる。この作品を日本に紹介するためねばり強い努力を続けてきたであろう人たちの尽力に、日本の映画ファンは感謝すべきだろう。

 この映画は旧ソ連解体に先立つペレストロイカ(改革)やグラスノスチ(情報公開)の象徴とされる映画なのだが、そうした製作当時の歴史的文脈を離れてもなお、この映画は今日的な問いかけを観るものに突きつけてくる。それは今生きている我々は、自分たちの足もとに横たわる「過去」から目を背けることができるのか?という問いかけだ。死んだ独裁者の罪を問う被害者遺族の声に、独裁者の息子は「あの頃は難しい時代だった。彼らはその時代の中を精一杯生きたに過ぎない」と言う。彼のこの言葉は言い訳に過ぎないわけだが、同じような言葉を我々は「日本の近代史」について語る人々の口からも聞かされることがしばしばあるような気がする。

(原題:Monanieba)

12月20日公開予定 岩波ホール
配給:ザジフィルムズ
1984年|2時間33分|ソ連(グルジア)|カラー|スタンダード|ステレオ
関連ホームページ:http://www.zaziefilms.com/zange/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:懺悔
DVD (Amazon.com):Repentance
関連書籍:Repentance: The Film Companion
関連DVD:テンギズ・アブラゼ監督
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