クジラ

極道の食卓

2008/11/20 映画美学校第1試写室
立原あゆみの極道+グルメ・コミックを松平健主演で映画化。
安っぽい映画だが笑ってしまう場面も。by K. Hattori

 プレイコミックで現在も連載されている立原あゆみの異色任侠コミック「極道の食卓」を、時代劇の大スター、松平健主演で映画化したコミカルなヤクザ映画。立原あゆみは『仁義 JINGI』や『本気(マジ)!』『弱虫(チンピラ)』が映画やOV作品になっていてすっかりヤクザ路線の人なのだが、僕の世代だと「麦ちゃんのヰタ・セクスアリス」の作者という印象が強かったりするんですけどね……。「極道の食卓」は立原あゆみのヤクザ路線と、それ以前の「麦ちゃん」路線が融合したような世界と言えるかもしれない。

 濁組組長・久慈雷蔵は55歳で熟年離婚。若い頃から苦楽を共にした妻や、愛する娘とも別れてひとり暮らしを始める。彼にはある決意があった。それは残りの人生を「学と食」に生きること。「学」とは若い頃に嫌い続けた勉強を再び始めることで、雷蔵は職業を隠して高校の夜間部に入学することにした。「食」とは日々の食事に心と思いを込めること。かくして昼間はヤクザの組長、夜は詰め襟の高校生という生活が始まる。学校では子供のような年の自称番長グループにからまれたり、クラスのアイドルである咲子と仲良くなったりする。そんなある日、雷蔵のもとに舎弟志願の若い男・マルハが現れる。雷蔵に心酔して父親の酔うに慕うマルハだったが、彼が雷蔵の舎弟になったのにはある秘められた理由があった……。

 この映画を一言でいうなら「安っぽい」ということになる。話も安っぽければ、主演の松平健以外のキャストもほとんど無名の安っぽさ。セットや衣装などの美術も安っぽく、どこをどう切り取ってもチープで貧乏くさい映画なのだ。荒唐無稽な設定の映画はどこかにどっしりと腰の据わったところがないと、フワフワと浮ついた軽薄な映画になりかねない。この映画はまさにその「軽薄さ」が全編にみなぎっていて、いかに松平健がリキんでみせても軽さを帳消しにできないのだ。

 もちろんこれはヤクザ映画のパロディでありコメディ映画だから、生々しいリアリティなんて必要ない。でもどんな映画であれ、そこには「映画作品としての売り」が必要だ。松平健の学ラン姿というのも、それはそれで確かに楽しい。でもそれだけではまだ物足りない。何しろ我々は数年前に、ラメ入りの和服姿で白塗りの松平健が腰を振って踊りまくる「マツケンサンバ」のカルチャーショックを味わっているのだ。今さら彼が詰め襟の学生服姿で恐縮してみせたところで、それ以上のインパクトは生まれっこないだろう。

 求められるのは「マツケンサンバ」に匹敵する衝撃なのだ。マツケンが風俗店でラッパーに変装するというシーンもあるが、こんなものはまだまだ生ぬるい。ここはひとつ映画のクライマックスにある牛田組長やダイアモンド★ユカイとの対決を、歌って踊るミュージカル・ナンバーとして演出してほしかった!

2009年2月公開予定 シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
配給:エクセレントフィルムパートナーズ
2008年|2時間|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.exf.info/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:クジラ/極道の食卓
原作:極道の食卓(立原あゆみ)
主題歌CD:遅刻(初回限定盤)(DVD付)
主題歌CD:遅刻
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