チェ 28歳の革命

2008/11/13 日劇3
革命家チェ・ゲバラのキューバ時代を描く伝記映画。
無名の若者は時代のカリスマになった。by K. Hattori

革命戦争回顧録 (中公文庫 ケ 3-2)  カストロと共にキューバ革命を成し遂げたアルゼンチン出身の革命家、エルネスト・チェ・ゲバラ(1928〜1967)の伝記映画。前後編4時間半という大作で、第1部はキューバ革命戦争の勝利を、第2部はボリビアでの戦いの挫折とゲバラの死を描く。監督のスティーヴン・ソダーバーグはゲバラ本人による「革命戦争回顧録」とボリビアでの「ゲリラ日記」などをもとに、徹底したリサーチを重ねてゲバラの姿をスクリーンの中に再現しようとしている。ゲバラを演じるのはベニチオ・デル・トロ。

 映画は1964年にゲバラがキューバ代表として国連総会で演説する様子を荒々しいモノクロの映像でドキュメンタリー風に描きつつ、1956年から59年までのキューバ革命戦争を時系列に追い掛けていく構成。全体をゲバラの一人称で描いているので、キューバ戦争がなぜ起きたのかや、カストロがいかなる政治的・戦略的な意図を持って行動していたのかなど、革命戦争の全体像はやはりわかりにくい。

 しかしこの映画はゲバラを通してキューバ革命戦争を描きたいわけではなく、キューバ革命戦争を通してゲバラというひとりの人間を描くのが目的なのだ。ゲバラが主で、戦争は従。ゲバラという人間さえきちんと描けていれば、革命戦争がいかなるものか理解できなくてもヨロシイと割り切っているようだ。だがこれによって、ニューヨークの国連に向かうゲバラがなぜああも敵意むき出しの罵声を浴びせられねばならないのか、その一方でなぜゲバラが当時も今も英雄視されるのか、キューバ革命の世界史的なインパクトと、その中でのゲバラの位置づけが今ひとつピンと来ないのも確かだ。キューバ革命戦争の中で注意深く控えめな行動に徹しているかに見えるゲバラの姿と、ニューヨークで周囲に尊大に振る舞うゲバラの落差はどこから来るのだろう。

 ゲバラは革命成立直後から、農業改革機構工業部長、国立銀行総裁、工業相などの要職を歴任し、指導者カストロの右腕として政治の世界で活躍した。しかし映画は第1部・第2部を通して、この時代のゲバラを素通りしてしまう。ゲバラはジャングルで戦うゲリラ戦の兵士であり、戦いを通して新社会設立を目指す革命家なのだ。

 放浪癖のある無名の青年医師だったゲバラが(その放浪ぶりは映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』にも描かれている)、たまたまキューバの革命指導者カストロと知り合ったのがそもそもの偶然。メキシコからキューバに向かうボートに乗り合わせた80名以上の革命軍兵士が、上陸早々あっという間に政府軍の迎え撃ちにあって10数名しか生き残らなかったとき、生き残りの中にカストロと共にゲバラがいたのもまた偶然。偶然がひとりの若者を革命の英雄に祭り上げたわけだが、そうした偶然を必然だと感じさせるのがカリスマのカリスマたるゆえんなのだろう。だがゲバラに政治家は似合わない。やがて彼は再び、放浪の旅を始めることになるのだ。

(原題:Che: Part One)

2009年新春公開予定 日劇3ほか全国東宝洋画系
配給:ギャガ・コミュニケーションズ、日活
2008年|2時間12分|スペイン・フランス・アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、ドルビーデジタル、SDDS
関連ホームページ:http://che.gyao.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:チェ/28歳の革命
原作:革命戦争回顧録(エルネスト・チェ・ゲバラ)
関連DVD:スティーヴン・ソダーバーグ監督
関連DVD:ゲバラ関係
関連書籍:ゲバラ関係
関連DVD:モーターサイクル・ダイアリーズ
関連DVD:ベニチオ・デル・トロ
関連DVD:デミアン・ビチル
関連DVD:ロドリゴ・サントロ
関連DVD:サンティアゴ・カブレラ
関連DVD:カタリーナ・サンディノ・モレノ
関連DVD:ジュリア・オーモンド
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