パニック障害の発作に苦しめられながら、仕事でも私生活でも常にビクビクと怯えて周囲からコケにされ続けているウェスリー・ギブソン。彼は街で突然殺し屋たちの銃撃戦に巻き込まれ、そのアジトに連れ込まれてしまう。彼らは1,0000年の歴史を持つ暗殺集団フラタニティのメンバーで、ウェスリーはつい先日殺された殺し屋の息子なのだという。長年彼を苦しめていたパニック障害は、興奮すると常人の数百倍も感覚が鋭敏になる彼の体質によるもの。ウェスリーは生まれながらにして、凄腕の殺し屋になるべく運命づけられていたのだ。組織で訓練を受けたウェスリーは、組織を裏切り父を殺した相手と対決することになるのだが、そこで思ってもみなかった事実を知ることになる……。
主人公ウェスリーを演じるのは『つぐない』のジェームズ・マカヴォイ。彼を暗殺組織フラタニティに導く美女フォックスにアンジェリーナ・ジョリー。フラタニティのリーダー、スローンを演じるのはモーガン・フリーマン。原作はマーク・ミラーとJ・G・ジョーンズの同名グラフィック・ノベルで、日本で言えば「人気コミックの完全映画化!」というものだ。監督のティムール・ベクマンベトフはロシア映画『ナイト・ウォッチ:NOCHNOY DOZOR』と続編『デイ・ウォッチ』で注目され、今回の映画に大抜擢されたのだとか。生身の人間が演じるスタントと、高度なSFXを組み合わせて作られた、リアルだが荒唐無稽なアクションシーンの数々には度肝を抜かれる。高層ビルの窓を突き破った人間が、銃を乱射しながら向かいのビルまで飛び移るオープニングから、観ているこちらは開いた口がふさがらないのだ。
はた織機の生み出す暗号の命じるまま暗殺を繰り返すフラタニティは、単純な勧善懲悪のヒーローではあり得ない。彼らは犯罪者を抹殺するのではなく、これから犯罪を犯す恐れのある人物すらもターゲットにするのだ。主人公ウェスリーはフラタニティに加入することで、それまでの負け犬人生が一変して有頂天になる。しかし彼は決して正義の味方ではない。組織の命じるままに、他人の命を奪うテロリストなのだ。そこに自分自身の判断はない。彼は自分に下される命令が合理的で理性的な判断によるものではなく、物言わぬはた織機からはき出されるメッセージであることを知っている。これは一種の神託みたいなもの。フラタニティははた織機という神を崇拝し、そのメッセージを忠実に実行しようとする過激で危険なカルト宗教団体なのだ。
奇想天外なアクションシーン満載の大活劇映画だが、アクションシーンの真っ直中での手に汗握るスリルを離れてしまえば、物語に爽快感はほとんどない。これはカルト組織に洗脳された男が、そこから抜け出すまでの物語。しかしこの恐ろしいカルト組織が、主人公を人間的に大きく成長させたこともまた事実。そこにこの映画の後味の悪さがある。
(原題:Wanted)
DVD:ウォンテッド
サントラCD:Wanted 原作コミック:Wanted 関連DVD:ティムール・ベクマンベトフ監督 関連DVD:ジェームズ・マカヴォイ 関連DVD:アンジェリーナ・ジョリー 関連DVD:モーガン・フリーマン 関連DVD:テレンス・スタンプ 関連DVD:トーマス・クレッチマン |