不死身の肉体とスーパーパワーを持ちながら、酒に溺れて道ばたでホームレス同然の暮らしをしているハンコック。彼はロサンゼルス市が抱える厄介者。スーパーパワーを引っさげて犯罪取締に手を貸してくれるのはいいが、やり方が大ざっぱで乱暴すぎるためハンコックの通った後には瓦礫と廃車の山ができる。だがそんな彼が、ひとりの男と出会ったことで生まれ変わる。偶然ハンコックに命を助けられたPRマンのエンブリーが、ハンコックのイメチェン計画を提案してきたのだ。ハンコックは渋々ながらこの提案に乗ってみることにするのだが……。
ウィル・スミス主演のスーパーヒーローもので、アメコミ原作ではなく映画オリジナルだ。物語はスーパーヒーローもののパロディ。普通のスーパーヒーローが自分の正体を隠して活躍するのに対して、ハンコックはまったく自分の顔を隠さない。普通のスーパーヒーローは品行方正な「正義の味方」だが、ハンコックは不潔で下品で乱暴な厄介者。スーパーヒーローが酒臭い息を吐きながら通行人の女性の尻を触ったり、警察にしょっ引かれて刑務所に入るなんて話を、これまでに見たり聞いたりしたことがあるだろうか?
映画は序盤から中盤までがスーパーヒーローもののパロディで、コミカルな喜劇仕立て。主人公がぎこちないながらもイメージチェンジに成功し、人びとの喝采を浴びるようになってきてからは正統派のスーパーヒーローものへと路線転換する。ここで語られるのは、スーパーヒーローの存在意義と使命感が、彼自身の世俗的な幸福にとって足かせとなる定番の葛藤だ。ここからラストまでは、アクションシーンもかなり盛り上がる。
本作はスーパーヒーローもののパターンを巧妙になぞっているようで、主人公の記憶喪失から生じた謎は最後まで謎のまま残されるし、主人公に匹敵するパワーを持つヴィラン(敵役)の登場もない。この映画はまだ、より大きな物語の序章、あるいは今後続くシリーズのためのパイロット版といったムードだ。アメリカでは大ヒットしているようなので、これは十分に続編もあり得ると思う。世界観としてはそれなりにしっかりしたものを作っているので、今後も豪華スターをゲストに呼んで続けていけば面白いものになるだろう。
それにしても、ぐうたらでアル中のスーパーヒーローなどという一種の禁じ手を、堂々とやってのけて成立させてしまうウィル・スミスの勢いはすごい。こんなことは中途半端な俳優がやるとシャレにならないわけで、人気と実力が揃った俳優がやっているからこそ最後もピタリと絵になるのだ。アメリカの経済誌フォーブスの調査によれば、ウィル・スミスは現在ハリウッドでもっとも稼ぐ俳優ということらしい。その額は推定で年間8千万ドル。ギャラがすべてだとも思わないが、俳優のギャラは人気のバロメーターでもある。いい俳優は、いい時にいい企画と巡り会うものだ。
(原題:Hancock)
DVD:ハンコック
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