画家と庭師とカンパーニュ

2008/07/16 映画美学校第2試写室
名監督とふたりの名優が奏でる素晴らしいアンサンブル。
胸の奥が暖かくなる再会と別れのドラマ。by K. Hattori

 パリにアトリエを構えて活動していた画家が、数十年ぶりに故郷のカンパーニュに戻ってくる。庭師募集に応募してきたのは、小学校時代の悪ガキ仲間。ふたりは数十年ぶりの再会を喜び合い、雇い主と使用人という関係を越えて互いをキャンバス(画家)、ジャルダン(庭師)と呼び合う親友同士になる。ふたりは生活も性格も正反対。すっかり都会ズレした画家と、土地に根付いた素朴な人柄の庭師。女ぐせの悪い画家は妻から離婚を切り出されて家庭崩壊の危機、庭師は愛する妻との静かな暮らしに満足している。芸術家の画家と、元国鉄マンで実務家の庭師。しかしそんなふたりは不思議とウマが合い、特に画家は彼と共に過ごす時間が楽しくて仕方がない。だがふたりの関係は、やがて悲しい最後を迎えることになる……。

 画家であり作家でもあるアンリ・クエコの自伝的小説「私の庭師との会話」を、『クリクリのいた夏』や『ピエロの赤い鼻』のジャン・ベッケル監督が脚色・監督したヒューマンドラマ。画家を演じたダニエル・オートゥイユと庭師役のジャン=ピエール・ダルッサンは映画初共演らしいが、長い会話が絡まり合っていくふたりきりの芝居をじつにふっくらと豊かに演じて、観ているものを映画の世界に引き込んでいくのだ。もともと庭師役は、『クリクリ』や『ピエロ』に主演していたジャック・ヴィユレ(フランシス・ヴェベール監督の『奇人たちの晩餐会』も代表作)を想定して準備をしていたのだが、05年1月にヴィユレが急死したことからダルッサンが代役に立てられたという。

 僕はダルッサンが大好きなので今回の映画も大満足なのだが、確かにヴィユレが出演する本作も観てみたかった。でもそれはおそらくダルッサンが出演した映画とはまったく別の、わかりやすいが手垢の付いた話になってしまうようにも思う。教養豊かでスマートな都会育ちの男と、無教養で田舎暮らしが身についた男が友情をはぐくむという物語は、例えば黒澤明がソ連で撮った『デルス・ウザーラ』などと同じひとつの類型なのだ。そこでは描かれる友情がいかに本物でも、都会の人間が田舎の人間を上から見下ろしている気配が否めない。でもこの映画のダルッサンはどうだろう。彼は確かに素朴で無教養な労働者階級の男ではあるが、生活の中で身に着けた知恵と哲学で、家庭内のあれやこれやで右往左往している画家以上の存在感を発揮しているではないか。

 都会と田舎の対比を人間関係に置き換えて描く物語では、田舎暮らしがいずれは廃れて消えていくものという前提で描かれることがほとんどだ。田舎暮らしは「未開」とイコールであり、「いまだひらかれない」その生活はやがて「開発」されて消えていく。だが『画家と庭師とカンパーニュ』においては、物語の最後にまったく逆のことが起きる。都会暮らしの領域に、田舎暮らしの価値観が侵入し、都会の生活を変えてしまうのだ。

(原題:Dialogue avec mon jardinier)

8月2日公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:ワイズポリシー
2007年|1時間45分|フランス|カラー|1:2.35シネマスコープ|ドルビーSR、DTS
関連ホームページ:http://www.wisepolicy.com/dialogue_avec_mon_jardinier/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:画家と庭師とカンパーニュ
関連DVD:ジャン・ベッケル監督
関連DVD:ダニエル・オートゥイユ
関連DVD:ジャン=ピエール・ダルッサン
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