アクロス・ザ・ユニバース

2008/04/25 映画美学校第1試写室
1960年代。リバプールからNYに渡った青年の恋の冒険。
全編ビートルズを使ったミュージカル映画。by K. Hattori

 ビートルズの楽曲だけを使って構成された、ジュリー・テイモア監督のオリジナル・ミュージカル映画。物語の中心となる場所は1960年代のニューヨーク。ベトナム戦争と反戦デモ、1967年のデトロイト暴動、1968年のキング牧師暗殺、学生たちによるコロンビア大学封鎖と武力鎮圧など、当時の世相や文化を散りばめながら、ニューヨークのアパートで集団生活を送る若者たちの青春群像を描く。この映画には1960年代後半の世界が、ミニチュア模型のようにコンパクトに凝縮されている。

 同時進行する複数の物語全体の中心になるのは、リバプールからやって来た青年ジュードと、恋人をベトナム戦争で失ったことから反戦運動にのめり込んでいく少女ルーシーのロマンスだ。ジュードやルーシーという名前はビートルズの有名な曲から拝借したものだが、この映画では他の登場人物たちの名前も、その多くがビートルズの楽曲にちなんだものだ。これは劇中でビートルズの楽曲をそのまま使用するための必然でもあるが、それをここまで徹底するのは、楽曲使用の便宜以上の何かをこの名付けに求めているからでもあるだろう。

 この映画では名前の他にも、ビートルズがらみのエピソードを多数引用している。ジュードの出身地がリバプールになっているのは、もちろんそこがビートルズの出身地だからだろう。彼が母子家庭出身という設定は、どことなくジョン・レノンを連想させもする。主人公たちは奇妙なバス旅行にも出かけるし、旅先では怪しげなグルに出会ったりもする。映画の最後が屋上でのライブ演奏になっているのも、もちろんビートルズの屋上ライブを踏まえてのこと。たぶんこの映画をビートルズのファンが観ると、いろいろな遊びや引用が散りばめられていて楽しいに違いない。ジャニス・ジョプリンみたいな歌手や、ジミ・ヘンドリックスみたいなギタリストなど、ビートルズと同時代の音楽事情が形を変えて盛り込まれているのも時代色を表している。

 とても楽しい映画だった。楽曲とシーンのからみも上手いし、状況設定とアレンジによってビートルズの楽曲が新しい命を得ていると思う場面も多い。懐メロ化しているビートルズの曲から、新しい魅力が引き出されている。でも僕はこの映画から、ノスタルジックな感慨以外の新しい感動や興奮を感じることができなかった。確かに楽しいのだが、この映画は結局のところビートルズの曲をちりばめた「1960年代ゴッコ」に過ぎないのではないだろうか。

 結局この映画は、登場人物たちの気持ちと40年後の現代のリンクが弱いのだ。ビートルズは素晴らしい。40年前の青春は輝いていた。でもそれが今この時代に、どんな意味を持っているというのだろうか? 「40年前はこんなでした」というだけでも面白いのだが、それを越えて今と響き合う何かがほしい。それが映画というものではないだろうか。それともこれは、無い物ねだりなのかなぁ……。

(原題:Across the Universe)

8月公開予定 渋谷アミューズCQN、シネカノン有楽町2丁目ほか
配給:東北新社 宣伝:アルシネテラン
2007年|2時間11分|アメリカ|カラー|1:2.35|DTS、SDDS、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.tfc-movie.net/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:アクロス・ザ・ユニバース
DVD (Amazon.com):Across the Universe (Two-Disc Special Edition)
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DVD (Amazon.com):Across the Universe [UMD for PSP]
Across The Universe - Exclusive 3-Disc Limited Edition Box set
サントラCD:Across the Universe(2枚組)
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