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2008/04/25 映画美学校第2試写室
クリスマスの夜、オフィスビルの地下駐車場は地獄になった。
大都会の密室というアイデアは面白い。by K. Hattori

 明日からクリスマス休暇。帰宅直前に上司から書類の作り直しを命じられたアンジェラは、深夜になってようやくすべての仕事を終わらせることができた。実家に急げば、まだパーティに間に合うかもしれない。だがこういう時に限って、これまで一度も故障したことのない車のエンジンがかからないのだ。あきらめてタクシーを呼ぼうとした彼女だったが、ビルはドアがロックされて外に出ることができない。警備員にドアを開けてもらおうと地下の管理室に向かったアンジェラは、そこで何者かに襲われて意識を失ってしまった。やがて目を覚ました彼女は、自分がビルの警備員に捕らえられ、自由を奪われていることを知る。

 若い女性が変質者に拉致監禁されるという定番のサスペンスだが、監禁場所としてオフィスビルの地下駐車場を用いたのがアイデア賞。普段は人や車の出入りが多い駐車場だが、クリスマス休暇でビルが数日間無人になるという状況を加えることで、ありふれた日常空間を閉ざされた密室にすることに成功している。ただしこの映画は、この優れたアイデアをうまく生かし切れたとは思えない。地下駐車場であればこそ起きる何かが、この映画には欠落しているのだ。

 そもそもたったひとつのアイデアだけで、1本の映画を最初から最後まで面白く観せるのは無理がある。地下駐車場への監禁というアイデアなら、これでつなげる観客の興味関心はせいぜい30分かそこらが限界だろう。1時間半の映画では残り1時間を維持するために、他のアイデアを注ぎ込まねばならないはず。しかし残念ながら、この映画はそこが弱い。犯人の犬、エルビス・プレスリー、途中で現れる警察官、レンタカーショップ、監視モニターなど、いろいろなネタ(タネ)をつぎ込んでいるが、そこから映画を支える大きなエピソードが芽吹くことがない。もっと面白くなりそうな映画なのになぁ……。

 それでもこの映画がそれなりに楽しく観られるのは、ヒロインのアンジェラを演じたレイチェル・ニコルズに魅力があるからだと思う。大スターの華やかさはないけれど、それがむしろこの映画のヒロインには似つかわしい。ヒロインはどこにでもいる、ちょっときれいな若い女性でしかない。ぱっと見たところでは特別な何かを感じさせないからこそ、犯人の男がそこに特別な思い入れを込めていく異常性が際だっていくのだ。彼女は決して強い女性ではない。少なくともこの映画の導入部では、強さの片鱗も見えない。押しつけられた仕事を断れず、職場で不愉快な目にあっても我慢して黙々と働き続けているのが彼女だ。それが映画の中で、強い女へと成長していくことになる。

 このヒロインに比べると、警備員のトーマスはまるでダメだった。映画は事実上アンジェラとトーマスの対決だけで成り立っているのに、トーマスのキャラクターに魅力がないのはいただけない。これは脚本自体の問題でもある。

(原題:P2)

5月10日公開予定 シアターN渋谷、銀座シネパトスほか
配給:ムービーアイ
宣伝協力:フリーマンオフィス WEB媒体宣伝:デジタルプラス
2007年|1時間37分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.p2-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:P2
DVD (Amazon.com):P2 (Widescreen Edition)
関連DVD:フランク・カルフーン監督
関連DVD:アレクサンドル・アジャ(製作)
関連DVD:レイチェル・ニコルズ
関連DVD:ウェス・ベントリー
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