人のセックスを笑うな

2008/03/03 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン8)
20歳も年上の女性に恋(?)をした美大生の少年の青春。
主人公に片想いする蒼井優がいい。by K. Hattori

 山崎ナオコーラの同名小説を、『犬猫』で注目された井口奈己監督が映画化。地方の美大に通う19歳の男子学生が、20歳年上の美人講師に惹かれていくというラブストーリーだ。ふたりは彼女のアトリエで結ばれ逢瀬を重ねるのだが、じつは彼女には夫がいることがわかって、19歳の少年は自分が身を引くことを決意。しかしどうにも別れがたく、再び関係が再開するかに見えた矢先、彼女は彼の前から忽然と姿を消す……、というのが大まかな物語。

 主人公みるめを演じるのは松山ケンイチで、物語は彼の視点を中心に回っていく。彼を翻弄する年上の美女ユリを演じるのは永作博美。しかしユリがいったい何を考えているのか、みるめをどう思っているのかはさっぱりわからない。このヒロインは、映画における大いなる「謎」なのだ。しかしこれは、ユリが曖昧な存在として描かれているわけではない。彼女はこの物語の中心にすっくと立ち、周囲の人間たちを攪乱し続ける映画の主役だ。でもこの主役に感情移入できる人は、あまりいないと思う。言動やたたずまいに「こんな人いそうだなぁ」というリアリティはあっても、その内面までは描写されていないからだ。

 物語のベースには、美大生の仲良し3人組がいる。みるめ君、堂本君にはさまれて、紅一点のえんちゃんという、男ふたりに女ひとりの組み合わせ。『突然炎のごとく』や『冒険者たち』にも登場する、定番の三角関係だ。みるめ君は恋愛なんてどこ吹く風の顔をしているけど、えんちゃんはそんなみるめ君が好きで、堂本君はえんちゃんが好きで、お互いの気持ちがすれ違っている中で、3人の関係はバランスが取れている。ところがそこに、つむじ風のようにユリが現れる。みるめ君はユリに夢中になり、取り残されたえんちゃんの気持ちは揺れ動き、堂本君はえんちゃんをそっと離れて見守る。ユリは仲良し3人組の関係をかき乱し、新しい関係へと導いていくトリックスターなのだ。

 映画は2時間17分と少し長め。長くなる原因は明らかで、これはひとつひとつの撮影カットが長いのだ。普通の映画なら複数のカットに分割するシーンを、固定したカメラアングルでずっと撮り続けていることが多い。これによって、芝居の歯切れは悪くなる。人物の動きや表情の変化は省略されることなくカメラの前にさらけ出され、動きや変化のプロセスそのものがスクリーンに拡大投影される。

 これがシーンによっては、ひどくリアルで生々しい空気を作り出すのだ。具体的に言うなら、それは「気まずさ」であり「照れくささ」だ。自分の身の置き所を探してモゾモゾと無意識に体を動かしてしまうような、決定的な「落ち着きのなさ」だ。俳優がカメラの前で監督のカットの声を待ちつつ芝居を続けていく「息苦しさ」が、映画の中では登場人物たちの気持ちの動揺や焦りという形に転化されるのだろうか。

1月19日公開 シネセゾン渋谷
配給:東京テアトル
2007年|2時間17分|日本|カラー
関連ホームページ:http://hitoseku.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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