1979年に始まったソ連によるアフガニスタン侵攻は、日本人にとって遠い外国で起きた、自分たちの生活とはまったく関係のない出来事だった。それが一気に身近なものになったのは、アメリカが翌年開催されたモスクワ・オリンピックの参加ボイコットを決め、日本を含む他の西側諸国が揃って五輪不参加を決めてからだと思う。これによりオリンピック出場を目指していた選手たちは悔し涙を流し、日本国民の同情を集めた。「アフガンなんてどうでもいいから、とりあえずオリンピックは何とかならないものか」というのが、当時の日本人ほとんどの気持ちだったんじゃないだろうか。
ソ連のアフガン侵攻は発生から10年後の1989年、ソ連軍が全面撤退することで終結した。ねばり強い抵抗を続けたアフガン人ゲリラとの戦いはソ連にとってのベトナム戦争となり、長引く戦争による損害や出費はソ連の社会と経済を疲弊させた。ソ連は1991年に崩壊。アフガン侵攻の失敗が、ソ連崩壊の原因のひとつになっていたことは間違いない。大国ソ連は、なぜアフガンのゲリラに負けたのか。それはソ連と戦うため世界中からアフガンに集結したイスラム原理主義のゲリラたちを、アメリカが軍事面で援助していたからだ。アメリカはアフガンに数十億ドルの予算をつぎ込み、ゲリラに組織戦闘の訓練をし、最新鋭の武器を与えてソ連の大型ヘリや戦車に対抗させた。もちろんすべては秘密作戦だが、この予算や武器調達に多大な貢献をしたのが、テキサス州出身の下院議員チャーリー・ウィルソン。この映画は彼を主人公に、冷戦末期の歴史の裏側を描く実録ドラマだ。
この映画でトム・ハンクス演じるチャーリー・ウィルソンは、アメリカという国の姿そのものが投影されている。チャーリーは人当たりが良くて、男性からも女性からも大人気。特に頭がいいわけではないが、状況判断能力には長けていることが彼の政治信条かもしれない。夢や理想を追いながら、時には大きく妥協する現実味も持っているし、目的に向けてなりふり構わず猪突猛進するかと見えて、女性たちとの情事や酒を楽しんでみせる享楽主義者でもある。しかし彼の性格や行動を一言で言うとするなら、それは「善意の人」の一語で済んでしまうのだ。彼は自分の目の前で苦しんでいる人や悲しんでいる人を、決して見て見ぬふりできない。だからこそ、彼はソ連と戦うアフガニスタンを支援する。
もちろんアメリカの一部政治家や経済人は国家や自らの「利益」を最優先して行動するが、アメリカという国を動かしているのは国民の多くが共有している「善意」の心なのだ。だが計算高く自らの利益を追求する立場と違い、善意は先々のことをあまり考えない。アメリカはアフガニスタンのイスラム原理主義勢力に武器を与え、ゲリラ戦の戦略戦術を叩き込み、それが結果としてアルカイダという国際テロ組織を生み出してしまったのも事実だろう。
(原題:Charlie Wilson's War)