ポチの告白

2007/12/11 サンプルDVD
真面目な警官が真面目さゆえに警察の腐敗に染まっていく。
これを観ると警察を見る目が変わる。by K. Hattori

 高橋玄監督の新作『ポチの告白』は、観た者をひどく不安にさせる映画だ。これまでにも警察の腐敗や犯罪を描く映画はたくさんあった。しかしそうした映画の中では必ず、犯罪に荷担する警官は全体のごく一部として描かれていたし、映画の最後には罪が告発されて警察内部が浄化されるという結末になっていたように思う。少なくとも警察を丸ごとすべて犯罪集団、犯罪組織として描く映画などほとんど存在しないだろう。仮に警察が腐敗していたとしても、それを監視するマスコミや司法の目が光っている。社会には権力の腐敗を押しとどめる安全装置が二重三重に張りめぐらされていて、一般市民はそれを信頼することで安心して眠ることができるはずなのだ。

 だがこの映画は、そんな市民の「安心」に何の保証もないことを暴き出す。ここに描かれる警察は、公権力を使って非合法に営利を追求する組織犯罪集団だ。犯罪を取り締まる立場の警官が多少のことをしても、それを警察が犯罪として立件することはまずない。警察は職質にかこつけて女性にいたずらし、小遣い稼ぎに犯罪を捏造し、公金を横領して裏金を作り、暴力団の違法取引に同行して用心棒代をせしめる。組織から逸脱した一部の警官が、こそこそと犯罪に手を出しているわけではない。これらはすべて、警察ぐるみのビジネスなのだ。警官は全員が家族親戚のごとく結束し、いざとなれば組織に対する忠誠心から自分ひとりが泥を被る。ひとりはみんなのため、みんなはひとりのため。ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンだ。

 タイトルにある「ポチ」というのは、組織に忠実なイヌとして警察内部の犯罪に手を染め、やがて切り捨てられる主人公を指している。しかし映画の最後には、この言葉が警察を取材するマスコミに対しても使われることになるのだ。そしてこの時、この映画が批判する一番の矛先は、じつは警察それ自体の犯罪ではなく、それを監視することなく警察の垂れ流す発表に群がるマスコミに向けられていたことに気づく。記者クラブ制度の中で警察と馴れ合いになり、警察に対して疑惑や批判の目を向けることを忘れたマスコミ。それは権力の暴走をチェックするのではなく、権力を守るための番犬に成り下がっている。

 では司法はどうか。行政から独立した権力機関であるはずの司法もまた、多くの場合は警察・検察の意向通りに裁判を進めることしかしない。(このあたりは痴漢冤罪事件を扱った『それでもボクはやってない』にも描かれていることと思う。)

 ここで描かれる警察犯罪の薄気味悪さは、そこに絶対悪とも呼べる首魁が存在しないことだろう。映画の中で組織犯罪の頂点に立っている警察署長が、諸悪の根源なのだろうか? そうではあるまい。おそらく彼もまた、先輩諸氏を見習って組織の中でのウマイ汁の吸い方を覚えただけなのだ。おそらくこれは警察に限らず、日本の「お役所」全体の体質だろう。

公開未定 劇場未定
配給:未定
2007年|3時間15分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーステレオ
関連ホームページ:http://www.grandcafepictures.com/pochi/
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