レンブラントの夜警

2007/11/19 京橋テアトル試写室
レンブラントの大作「夜警」に秘められた殺人事件の真相。
美術史を題材にしたミステリー。by K. Hattori

 17世紀のオランダを代表する画家レンブラント。肖像画家として名声を博し、経済的にも成功しながら、晩年は生活が乱れ、破産宣告を受けて不遇のうちに没したという。彼が全身全霊をかけて打ち込んだ集団肖像画の大作「夜警」が斬新すぎて不評だったことが、その後の彼の不遇を決定づけたとも言われている。時流に合わせて流行の絵を描くことができなかった芸術家の悲劇……。だがその通説は本当なのか? 映画監督のピーター・グリーナウェイは、問題の絵「夜警」に込められたレンブラントの告発を読み取ってみせる。この絵の中には、この絵を依頼した張本人たちの秘密と不正と犯罪が描かれているのだ。

 西欧絵画史の教科書には必ず載っているような超有名絵画に、画家が秘かに描き込んだ重大な秘密がある……というアイデアは、昨年映画化されて大ヒットした『ダ・ヴィンチ・コード』にも通じるもの。ただし『ダ・ヴィンチ・コード』は同名ベストセラー小説を、ハリウッドのメジャースタジオが、豪華スターの共演とヒットメイカー監督の組み合わせで映画化したエンタテインメント大作。ピーター・グリーナウェイが脚本・監督した『レンブラントの夜警』は、それとはだいぶ趣が違う。

 一言でいえば、非常に演劇的な映画になっている。抽象的で象徴的なセット撮影中心で、シンメトリーな構図へのこだわりも相変わらずだし、水平垂直の動線を軸に人が移動していく様子も、映画のリアリズムより演劇的な制約を感じさせる。かといってこれが舞台劇の映画化にありがちな、移動空間の窮屈さを感じさせるというわけではない。むしろ動きは自由自在。作り手のイマジネーションの赴くままに、場面も時間もあちこちに飛んでいく。演劇的な空間処理を多く使いつつ、これは現実の演劇では絶対に表現できそうにない、紛れもない映画的空間を作り出しているのだ。この映画は舞台風の空間処理を持ち込むことで、レンブラントの生涯の中でももっとも劇的な10数年間を2時間19分の映画に凝縮していく。

 しかしながらこの映画、僕はとてもわかりにくかった。ほとんど顔なじみのない俳優たちが17世紀風の衣装を身に着けて、舞台劇のような抽象化された空間に次々現れては消えていく。10年の時間は圧縮されて、そこに現実の出来事と、レンブラントの推理、妄想などが入り組んで混じり合う。そこに生身のリアリズムがないので、人物を場所やエピソードと結びつけて記憶することが難しい。もちろん主人公のレンブラントなど、中心となる何人かの人物は他と判別できるのだが、この映画は集団肖像画である「夜警」に登場する大勢の人たちが入れ替わり立ち替わり登場する。馴染みのない俳優が演じる、馴染みのない名前の人々を正確に識別することは困難だ。この映画でグリーナウェイが何を述べようとしているのかは、同じ映画を2度か3度観ないと理解できないのではないだろうか。

(原題:Nightwatching)

2008年1月12日公開予定 新宿テアトルタイムズスクエア
配給:東京テアトル、ムービーアイ
2007年|2時間19分|カナダ、フランス、ドイツ、ポーランド、オランダ、イギリス|カラー|スコープサイズ|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://eiga.com/official/nightwatching/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:レンブラントの夜警
関連洋書:Nightwatching (Peter Greenaway)
関連DVD:レンブラント(1999)
関連DVD:レンブラント 描かれた人生(1936)
関連DVD:レンブラント ~孤独な世界~
関連書籍:レンブラント関連
関連DVD:ピーター・グリーナウェイ監督
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関連DVD:エヴァ・バーシッスル
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関連DVD:エミリー・ホームズ
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