オリヲン座からの招待状

2007/11/15 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ2)
映画斜陽化時代の小さな映画館を舞台にしたドラマ。
背景になる時代が見えてこない。by K. Hattori

 日本人が一番映画を観ていたのは昭和33年だった。当時の総人口9,176万7千人に対して、映画人口が11億2,745万2千人。この年は日本人ひとりあたり平均して12本強の映画を、全国7,067館ある映画館のどこかで観ていたことになる。だがその後テレビが普及し始めると、映画の観客数は激減した。5年後の昭和38年には映画人口が半分以下に激減。繁華街の一等地に連日大勢の客を集めていた映画館には閑古鳥が鳴き、続々と閉館転業を余儀なくされていくことになる。

 『オリヲン座からの招待状』は、そんな映画の斜陽衰退期を再現した物語だ。始まりは昭和29年。この年は映画産業もまだ上り調子。京都西陣にある小さな映画館オリヲン座も、『二十四の瞳』(昭和29年)と『君の名は』(昭和28年)の二本立て興行で賑わっている。この当時の街の再現がなかなかよくできている。街はまだ「戦後」の面影がある。食うや食わずでオリヲン座に流れ着き、映写技師の見習いを始める仙波留吉は戦災孤児だ。だが時代は進み、昭和30年代半ばにオリヲン座の館主が病死する。留吉は未亡人のトヨとふたりして、何とかオリヲン座を守ろうと決意する。周囲の街の人々も、そんなふたりを応援するのだ。

 だがそれから間もなくして、オリヲン座についてあれこれよからぬ噂話をする人が現れる。留吉とトヨが「できた」と言うのだ。「美人のかみさんが若い男をくわえ込んだ」と言う者もいれば、「どこの馬の骨とも知れぬ男が後家さんをたらし込んだ」と言う者もいる。街の人たちはオリヲン座から足を遠ざける。悪い噂は本人たちの耳にも入ってくる。留吉はこれに心を痛めるが、映画館を守るために踏ん張り抜く。

 しかしこの映画には嘘がある。映画館から客足が遠のいたのは、悪い噂のせいじゃない。どんな街のどんな映画館であれ、ほとんどの客は映画館主の顔も知らずに映画を観ているのだ。映画館から客がいなくなったのは、間違いなくテレビのせいだ。テレビの普及は、映画の中にもちゃんと描写されている。オリヲン座の居住部にだって、ちゃんとテレビは置いてあるのだ。でもこの映画の中では、誰もそのことについて言及しない。この映画館が流行らなくなったのは、街の人たちの無理解と偏見のせいにしたいのだ。そしてそんな偏見から自由な幼い少年少女のカップルだけが、この映画館を愛する存在として登場する。何という嘘っぱちか!

 映画というひとつの産業が音を立てて崩れ去っていく過程は、多くのドラマを生んだはずだ。そのほとんどは悲劇だろう。だがその悲劇の中には、普遍的な人間ドラマが隠されている。『オリヲン座からの招待状』がそれをきちんと描ければ、日本版の『ニューシネマ・パラダイス』とでも言うべき素晴らしい作品が生み出されたに違いない。でもこの映画は映画産業崩壊に翻弄される小映画館の悲劇を、陳腐なメロドラマの中に閉じこめてしまった。

11月3日公開 丸の内TOEI 1ほか全国東映系
配給:東映
2007年|1時間56分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.orionza-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:オリヲン座からの招待状
サントラCD:オリヲン座からの招待状
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