嫌味な教師をついぶん殴って裁判所から3ヶ月の自宅軟禁を命じられた高校生ケールは、暇つぶしに双眼鏡やビデオカメラを使った近所の覗き見を始める。折しも隣の家には美人女子高生アシュリーの一家が引っ越してきて、ケールの覗き見にも一段と熱が入る。だが彼はある日、裏手の家に住むターナーという男の不審な行動を目にする。彼は連日テレビやラジオで報道されている、連続誘拐殺人犯と関係があるのではないだろうか? ケールは親しくなったアシュリーと親友ロニーと共に、ターナーの家を監視するようになるのだが……。
これは誰が観たって、ヒッチコックの名作『裏窓』の現代版なのだ。自宅から出られない主人公が窓越しに覗いた近所の住民の行動に疑念を持ち、彼を殺人犯だと思い込む。身動きのできない主人公は部屋に出入りする恋人や友人に協力してもらい、この犯罪の証拠を集めようとする……という物語は共通だ。ただし『ディスタービア』は、主人公やその仲間たちを高校生にした。舞台を大都会のアパートから、郊外の住宅街にした。主人公が見つける犯罪も、家庭内での妻殺しから、アメリカ各州を股にかけた連続誘拐殺人に拡大した。
『ディスタービア』はもちろん、『裏窓』をそのままなぞっているわけではない。舞台や登場人物たちの設定が変われば、物語の流れや組み立ても変化してくる。21世紀の現代には、半世紀前の『裏窓』時代には存在しなかったハイテク装備もあふれかえっている。携帯電話、ビデオカメラ、デジカメ、パソコンなどは、特殊な秘密兵器ではなく家電製品のようなものだ。『裏窓』では骨折とギブスが主人公を部屋に閉じこめていたが、この映画ではGPSセンサー付きの足かせが主人公の自由を縛る。
しかしたぶんこの映画は、当初から『裏窓』を下敷きに物語を考えたわけではないと思う。郊外の住宅地に潜んでいる殺人犯を、たまたま高校生が見つけ出してしまうというアイデアがまずあって、それに肉付けしていくうちに『裏窓』に似ていったのかもしれない。あとは作り手側もそれに気づいて、あちこち『裏窓』を手本にしながら手を入れていったのだろう。おそらく最初に『裏窓』ありきでは、ここまで自由な脚色は難しいだろう。
『ディスタービア』はアクション満載の現代流犯罪ミステリー映画と、サスペンス・スリラーの古典であるヒッチコック映画のいいとこ取りをした、近年まれに見る傑作だと思う。高校生の探偵ごっこという物語の世界観は小さいが確かだが、それは『裏窓』だって似たようなものだ。これは『裏窓』をまず観た上で観れば、面白さは何十倍にもなるはず。そうすることで『ディスタービア』の新しさや工夫もよくわかるし、『裏窓』の面白さの秘密もより理解しやすくなるだろう。いずれにせよ映画が好きな人ほど、この映画が好きになることは間違いないと思う。僕は大好きだ!
(原題:Disturbia)