ミッドナイトイーグル

2007/10/10 松竹試写室
北アルプスに墜落した米軍ステルス戦闘機を巡る攻防戦。
話のスケールはでかいが細部がスカスカ。by K. Hattori

 冬の北アルプスに墜落した米軍の最新鋭ステルス爆撃機「ミッドナイトイーグル」を巡って、自衛隊と某国秘密工作員が血みどろの争奪戦を繰り広げる。たまたま墜落を目撃したフリーカメラマンの西崎は、後輩の新聞記者・落合と共に墜落現場に向かう。無人の山中に軍用機が墜落しただけの事故にも係わらず、事件が公にされないのはなぜか。自衛隊はなぜ重装備で山に向かったのか。某国秘密工作員たちは、墜落機から何を奪おうとしているのか。やがて西崎たちは、墜落機に「日本に存在してはならないもの」が搭載されていたことを知る。それが某国の手に渡れば、日本は破滅する……。

 高嶋哲夫の同名小説を『ホワイトアウト』や『亡国のイージス』の長谷川康夫が脚色し、『油断大敵』『フライ,ダディ,フライ』の成島出が監督したアクション・サスペンス映画。2時間11分と通常の映画より少し長めの尺だが、その中に山岳映画、ポリティカル・サスペンス、銃器を使ったアクション、家族愛などの人間ドラマ等々、さまざまな要素が詰め込まれている。ただしそうした要素が映画の中でバラバラになってしまい、どれも中途半端になってしまったのは残念。スケールの大きな物語世界をタイトにまとめ上げることが出来ず、風呂敷だけ大きく広げてしまった印象だ。

 こうなった理由は、ディテールの弱さにあるのではないだろうか。同じ脚本を映像化するにしても、登場人物たちの生活や生理というものをしっかり描写していくだけの根気強さがあれば、映画はずっと引き締まったものになったような気がする。雪山でのアクションはそこそこ立派なものだ。でもこの映画の弱点は北アルプス以外の場所にある。

 例えば竹内結子扮する写真部編集者の生活ぶりに、都心の独身ひとり暮らしの部屋に、姉の残した小さな子供を抱え込んでしまったという生活の実感は感じられるだろうか。写真誌の編集部で働きつつ、各種の情報筋からネタを集め、政府公安にまで顔が利く編集長が、石黒賢でいいのだろうか。一国の首相が藤竜也というのはともかく、なぜ彼は画面に登場したときから無精ひげ(というわけではないんだろうけど)なんだろう。首相を演じるなら、ひげぐらい剃ろうよ。でなけりゃこの役は、津川雅彦にでもやらせりゃよかった。藤竜也は自衛隊のトップにでも回せばサマになっただろう。

 政府の危機管理室に集まった連中の顔ぶれは、とりあえず員数集めのためにかき集められた無名の俳優ばかりの様子。ポリティカル・サスペンスとしては首相を中心とするこの部屋が中心なんだから、ここに重みがないと話にならない。これじゃ怪獣映画なみの安っぽさだ。こういう場面では、他の閣僚や役人の役に、何人かベテランの俳優を混ぜておくべきなのだ。台詞なんて無くても、それで重みが変わってくる。黒澤明の『天国と地獄』に、藤田進や志村喬が出ていたのがいい例だと思う。

11月23日公開予定 全国拡大ロードショー
配給:松竹
2007年|2時間11分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.midnighteagle.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ミッドナイトイーグル
原作:ミッドナイトイーグル(高嶋哲夫)
関連商品:TMW「ミッドナイトイーグル」BOX
関連DVD:成島出監督
関連DVD:大沢たかお
関連DVD:竹内結子
関連DVD:玉木宏
関連DVD:吉田栄作
関連DVD:石黒賢
関連DVD:藤竜也
ホームページ
ホームページへ