レター

僕を忘れないで

2007/09/27 サンプルDVD
新婚早々に病気で亡くなった夫から妻に手紙が届く。
韓国の大ヒット映画をタイでリメイク。by K. Hattori

 タイのバンコクでIT関連の仕事をしているディウは、大叔母の葬儀のため訪れたチェンマイで、農業試験場の技官をしている青年トンと出会う。遠距離で暮らしながらも電話でのやりとりを続け、ふたりはやがて結婚。ディウは都会の喧噪を離れてチェンマイへと移り住み、電話やネットを使ってプログラマーの仕事を続ける。家事がほとんどできない彼女にかわって、家の中を切り盛りするトン。ふたりにとって、夢のような日々が永久に続くかに思えたある日、トンが突然倒れて病院に担ぎ込まれる。彼の体は病に蝕まれていたのだ。日に日に衰弱していくトンを、ディウはただ見つめることしかできない。医師の治療やディウの必死の看病のかいもなく、トンは間もなくこの世を去ってしまうのだった……。

 1997年11月に韓国で公開され、翌年の興行成績でナンバーワン・ヒット作となったイ・ジョングク監督の『手紙』(日本では劇場未公開だが、今年の韓流シネマ・フェスティバルで上映)を、舞台をタイに移して再映画化した作品。僕はオリジナル版を未見なのだが、原作では大学院生だったというヒロインを、IT企業で働くプログラマーにしているのは大きな変更点なのかもしれない。ディウは結婚などしなくてもひとりで自立して生きていける、今風のキャリア女性なのだ。

 家計に関してもチェンマイの農業試験場で働く夫のトンより、妻であるディウの方が稼ぎはいいようだ。彼女は家事もほとんどできず、それをサポートをするのもトンの役目。つまりこの夫婦は、経済的にも妻の方が主たる稼ぎ手で、家事に関しては夫が行うという、一般的な夫婦関係から逆転した関係になっている。

 僕がこの映画を観ていて一番興味深く感じたのは、劇中に描かれているこうした男女関係の描写だった。映画の序盤ではディウの同僚であるケートが出会い系サイトを使って積極的にデートを繰り返す様子が、ディウとトンのたどたどしい関係の深まりと同時進行するように描かれていく。タイと聞いてもあまりピンと来ないのだが、少なくともここで描かれているバンコクでの生活ぶりは、東京で暮らす同年代の女性たちとさして変わりがないものに見えるのだ。今は世界中どこに行っても、都市部での暮らしはすっかり欧米化して大した違いがないのかもしれない。

 ただし都市部と農村部の暮らしの違いには、日本以上の大きな変化がある。バンコクの生活は21世紀の世界標準だが、農村部の暮らしは19世紀のまま止まっているかのようだ。しかし面白いのは、この映画ではそうした地域間格差が決してネガティブには描かれていないこと。農村部は貧しいわけでもないし、遅れているわけでもない。むしろ農村部には、都市部が切り捨ててしまった別種の「豊かさ」が存在している。トンという男はそんな地方の「豊かさ」の象徴であり、ディウはそんなトンを通してタイ地方部の「豊かさ」と出会うのだ。

(原題:The Letter)

10月13日公開予定 K's Cinemaほか全国順次公開
配給:IMX、太秦 宣伝:太秦株式会社
2004年|1時間50分|タイ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.letter-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:レター/僕を忘れないで
原作DVD:手紙(1997)
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