ナルコレプシーという病気で、たびたび突発的に眠りこけてしまう発作を起こすギュス。どんな仕事をしてもすぐクビになってしまう彼には、子供の頃から大きな夢があった。それは生来の絵の才能を生かしてコミック作家になること。だが彼の妻パムが望んでいるのは、夫が普通の職について家庭を支えてくれることだった。発作で寝込んだ最中にみた夢をコミック化しはじめたギュスだったが、そんな彼がなぜか殺し屋に命を狙われることになってしまう……。
ダメ人間ばかりが登場するコメディで、主人公ギュスを筆頭に、妻のパムも、親友のレニーも、精神科医のププキンも、彼が雇う殺し屋たちも、揃いもそろって全員がダメ人間。強烈なコンプレックス、肥大した自意識、そして何より、自分の手近なところで欲望を満たしてしまおうとする意志の弱さ。映画の中に立派な人ばかりが出てくるよりは、ダメな人が出てくる方がホッとできる。でもダメな人ばかりというのも、ちょっと困ったものだ。しかもこの映画ではそのダメっぷりが、一様に同じような傾向を持っているのにも苦笑してしまうしかない。立場は違えども、ここに登場する人間たちはみんな似たもの同士なのだ。だからこそ、彼らは最終的に互いを許し合ってしまう。この世界の中で他者を非難することは、そのまま自分を非難することになるからだろう。
主人公ギュスがすぐに寝込んで夢を見るという展開から、中盤から後半はダニー・ケイの『虹を掴む男』みたいになるのではと期待した。ところがこの映画はむしろそうせずに、ギュスにきわめてリアルな現実の世界を歩ませることにした。荒唐無稽な夢を見ているのは、ギュスの周囲にいる「まともな人間」たちの方なのだ。ププキンはその夢に飲み込まれて身を滅ぼし、パムとレニーも道を踏み外す。レニーの目の前に現れるジャン=クロード・ヴァン・ダム(本人がゲスト出演!)は、レニーがギュスより何倍も夢に毒されていることを物語っている。
頭のいかれた大富豪の精神科医や、常にフィギュアスケートの衣装を着ている双子の殺し屋、夢の中のジャン=クロード・ヴァン・ダム、出しゃばりな出版社社長など、荒唐無稽なキャラクターが次々登場して楽しませてくれる映画だが、映画全体の雰囲気はかなり暗い。ここにあるのは、人間が大人になることで何かを見失い、永久に手放してしまうことから生じる痛みなのだ。人は夢を見失い、家族を見失い、友を見失う。その喪失の痛みを、人は自分ひとりで抱えながら生きるしかない。
夢見がちな男が主人公でも、『虹を掴む男』のようなおとぎ話は現代においてはもはや成立しないということだろうか。(『虹を掴む男』のリメイク計画もなかなか進まない様子だけど、どうなるんだろうな。)クスクス笑いながら観ていたが、これは結構、悲しい映画だったりするのだ。身につまされるなぁ。
(原題:Narco)
DVD:ナルコ
関連DVD:トリスタン・オリエ監督 関連DVD:ジル・ルルーシュ監督 関連DVD:ギョーム・カネ 関連DVD:ザブー・ブライトマン 関連DVD:ブノワ・ボールヴールド 関連DVD:ブノワ・ポールヴールド 関連DVD:ジャン=クロード・ヴァン・ダム |