河童のクゥと夏休み

2007/08/10 東劇
東京に姿を現した河童の子が日本中に大騒ぎを起こす。
話は単純だが、テーマは結構深い。by K. Hattori

 優れた映画がすべてそうであるように、この映画にも様々なテーマが内包されている。映画を観る人によって、あるいは映画を観るタイミングによって、観る回数によって、この映画は観る側に多種多様なテーマを投げかけてくるはずだ。これは友情の物語であり、家族の物語であり、少年たち(康一とクゥ)の成長物語であり、思春期を前にした小学生の淡い初恋の物語であり、犬と飼い主の絆の物語であり、軽薄なマスコミとそれに付和雷同する人々の物語でもある。

 ただしこうした多彩なテーマを盛り込んだ結果、映画にややまとまりが欠けているような印象も受ける。特に東京タワーとオッサンの死を頂点とするアクションのクライマックスが、クゥの旅立ちという物語上のクライマックスと一致しないのは気になった。東京タワーであれだけ盛り上げるなら、旅立ちのエピソードはもう少し手短に切り上げた方がバランスは良くなったはずだ。クゥとの別れの話を、同級生の少女・菊池との別離と同時に描いてしまうのも、同じような話がふたつ重なって、感情の盛り上がりを相殺してしまう。

 原恵一監督待望の新作だし、僕もこれを優れた映画だと思いたいのは山々だ。しかしこの映画、細かなところで何かがかみ合っていないように思う。それは前記した終盤のエピソードについてもそうだし、中盤の遠野への旅で、クゥがあっさりと仲間探しをあきらめてしまうところもそうだ。ここでクゥの挫折と、仲間を失ったことによる孤独と絶望を、もっとはっきりと描いてほしかった。

 河童のクゥは現代の日本社会の中で、人間と共存しながら暮らしていくことはできない。だからクゥは、日本のどこかにまだ残っているに違いない自分の仲間を探しだし、彼らと共に暮らすことを願うのだ。だがそれが叶わぬ夢だと知ったとき、クゥは何とかして人間たちと折り合いを付けながら生きていこうとする。それがテレビ出演につながるわけだ。だがクゥはここで、自分はやはりどうしても人間たちと一緒には暮らしていけないということを思い知らされる。クゥにはもはや、身の置き所がない。

 自分自身の生きるべき場を失い、身の置き所をなくしたクゥの境遇は、学校にも家庭の中にも身の置き所がない菊池紗代子の境遇に重なり合う。だからこそ彼女は、康一にクゥを守ってほしいと頼む。だが康一はクゥを守ってやれなかった。彼は目の前で苦しんでいる菊池に対しても、何もしてやることができない。でもそれは、康一の責任じゃない。クゥの抱えた問題はクゥ自身が解決するしかないのだし、菊池の抱えた問題もまた、彼女自身が解決するしかないのだろう。一度は死を考えたクゥは、その後自分の意志で生きることを選び取った。たぶん菊池も、自分の意志で力強く生きていくことだろう。映画を観る側は、それを願うしかないのだが、クゥの姿を見ていると「きっと大丈夫!」と楽観的な気持ちになれるのだ。

7月28日公開 シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
配給:松竹
2007年|2時間18分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.kappa-coo.com/
DVD:河童のクゥと夏休み
サントラCD:河童のクゥと夏休み
主題歌CD:夏のしずく(大山百合香)
原作:河童のクゥと夏休み(木暮正夫)
関連書籍:河童のクゥと夏休み(絵コンテ集)
関連書籍:原恵一と「河童」の長い旅 河童のクゥと夏休み公式ガイドブック
関連書籍:映画 河童のクゥと夏休み (小学館のアニメ絵本)
関連DVD:原惠一監督
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