伝染歌

2007/07/20 松竹試写室
ビデオや携帯電話の次には、歌に殺される。
企画・原作は『着信アリ』の秋元康。by K. Hattori

 『着信アリ』シリーズの秋元康が企画と原作を担当したホラー映画。主人公の女子高生たちを演じているのは、秋元康がプロデュースする女性アイドルグループ「AKB48」であり、おそらくは「AKB48主演のアイドル・ホラー映画」というのが企画のコンセプトだろう。監督・脚本は『バウンス ko GALS』の原田眞人だが、彼はかつて『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』という作品も撮っている。ただし現在の原田眞人は20年前の彼ではないし、共同脚本が『パッチギ!』や『フラガール』の羽原大介となれば、これが普通のアイドル・ホラーになるはずがない。

 この映画は面白い。青春映画としてはそれなりに見応えがあるし、コミカルなシーンも多くてついニヤニヤ笑ってしまったりもする。しかしホラー映画としては、あまり恐くないという重大な欠点を持っている。作り手の側も「ホラー」にはあまり重きを置いていない様子。しかしそのため、「恐怖」を通過儀礼にして登場人物たちが成長していくというストーリーも弱くなってしまった。料理次第では傑作『バウンス ko GALS』の現代版になり得る素材だったと思うのだが、あるいは原作段階から「伝説の真相」については決定済みで、幽霊話として陳腐なオチに収まってしまったのかもしれない。

 登場人物が揃いも揃って個性派ばかりなので、その魅力や面白さで話をどんどん先に進めていく。展開はかなりスピーディで、物語を追いかけていくだけでも目が離せない。だがその物語の下にあるはずの「現実」や「リアリティ」に、手が届きそうで届いていないのではないかというもどかしさ。『KAMIKAZE TAXI』や『バウンス ko GALS』には、荒唐無稽な物語の向こう側に現実の日本が透けて見える瞬間があった。でも『伝染歌』にはそれが見えない。面白そうなアイデアがちりばめられている割には、そのどれにも踏み込みが浅く、せっかくのアイデアがストーリーの中で磨かれていない印象が残る。

 映画に登場するさまざまなアイデアに類似するものは、既に他の映画でも取り上げられているものなのだ。実在した自殺を招く歌は『暗い日曜日』という映画になっている。インターネットと自殺の係わりは、園子温の『自殺サークル』や『紀子の食卓』に描かれていた。死から逃れるために、キーとなった過去の事件の真相を発掘していくという展開は『リング』にもある古典的なもの。謎を解こうとする人間がジャーナリストというのも、なんだか常套手段めいている。これじゃストーリーに新味がないのもやむを得ない。

 だがこの原田監督は、こうした「類似アイデア」の存在をむしろ楽しんでいるのかもしれない。劇中には過去の様々な映画のイメージをちりばめ、否応なしに観客の映画的記憶を刺激する。そのどこに反応するかは、観客の映画体験次第だろう。僕は『デッド・ゾーン』にやられました!

8月28日公開予定 東劇(先行公開)
8月25日公開予定 全国ロードショー
配給:松竹 宣伝:日活 宣伝部
2007年|2時間8分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.densen-uta.jp/
DVD:伝染歌
主題歌CD:僕の花(五井道子)
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