クロッシング・ザ・ブリッジ

サウンド・オブ・イスタンブール

2007/02/08 松竹試写室
東西文化の交差点イスタンブールの音楽事情。
現代トルコの音楽カタログ。by K. Hattori

 ヨーロッパとアジアの境界線はどこか? それは地中海と黒海を結ぶボスポラス海峡である。海峡の西側がヨーロッパで、東側がアジア。そしてこの両方にまたがって広がるのが、この映画の舞台であるイスタンブールだ。古代ギリシャ時代に植民都市ビザンチウムとして栄えたこの町は、4世紀にローマ帝国の首都コンスタンティノープルとなり、東西ローマ帝国分裂後も東ローマ帝国の首都として繁栄。15世紀以降はオスマントルコの首都として栄え、20世紀にトルコ共和国が首都をアンカラに移した後も、トルコ最大の都市として経済や文化の中心地となっている。

 映画『クロッシング・ザ・ブリッジ/サウンド・オブ・イスタンブール』は、東西文明の架け橋になっているこの町の魅力を、音楽という切り口から探っていくドキュメンタリー映画だ。案内役はドイツの前衛バンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのギタリストでベーシストのアレキサンダー・ハッケ。映画『愛より強く』の仕事でイスタンブールを訪れたハッケは、それ以来この町と音楽の虜になってしまったらしい。『愛より強く』のファティ・アキン監督が、ハッケの旅の同伴者として本作を監督をしている。(実際にはアキン監督の企画に、ハッケが乗ったのかもしれないけどね。)

 最新のデジタル式録音機材一式を抱えたハッケが、現代トルコのミュージシャンたちを訪ねてセッションや歌を録音していくのが映画の中心で、その周囲にミュージシャンたちのインタビューが配置されている。登場するミュージシャンは10数組。年齢もバンドの編成も楽曲の傾向も違うミュージシャンが多数出演していることで、この映画は現代トルコの音楽カタログかミュージック・サンプラーのようになる。しかし音楽を巡るロードムービーとしては、案内役のハッケにそれほど主体性が見えないのが弱点か。キューバの老ミュージシャンたちを追った『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』には、案内役のライ・クーダーや監督ヴィム・ヴェンダースの個性が色濃く反映していたし、トニー・ガトリフ監督がロマ(ジプシー)音楽の源流を旅する『ラッチョ・ドローム』や、ミカ・カウリスマキ監督の『ロモ・ノ・ブラジル』にも作り手の嗜好や趣味がしっかりと刻印されていたように思う。この映画のアレキサンダー・ハッケは、何となくイスタンブールにやってきて、何となくミュージシャンたちを訪ね歩き、何となくドイツに戻ってしまう。

 デジタル録音された音声は明瞭なのだが、デジタル・ビデオで撮影された映像は粒子が粗く、イスタンブールの風景や空気感がスクリーンを通して伝わってこなかった。場所が典型的なヨーロッパの観光都市なら、粗い映像の隙間を観る側の知識や想像力で埋めることもできるが、イスタンブールではそうもいかない。たぶんこれは過渡期の映画なのだ。あと数年で、小型のハイビジョン・デジカメが主流になるだろう。

(原題:Crossing the Bridge: The Sound of Istanbul)

3月公開予定 シアターN渋谷ほか
配給:アルシネテラン
2005年|1時間32分|トルコ、ドイツ|カラー|アメリカン・ヴィスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/crossingthebridge/
DVD:クロッシング・ザ・ブリッジ/サウンド・オブ・イスタンブール
DVD (Amazon.com):Crossing the Bridge: The Sound of Istanbul
サントラCD:クロッシング・ザ・ブリッジ~サウンド・オブ・イスタンブール
サントラCD:Crossing the Bridge: The Sound of Istanbul
サントラCD:Crossing the Bridge
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