EXTE

エクステ

2006/12/20 東映第1試写室
貨物コンテナから見つかった膨大な髪の毛と少女の死体。
園子温監督のコミカルなホラー作品。by K. Hattori

 港のコンテナ埠頭に積まれている、膨大な量の貨物コンテナ。「悪臭がする」という通報でコンテナのひとつを開いた警官は、その中にぎっしりと人毛が詰め込まれている様子を見て顔をしかめる。これらはすべて、エクステ(ヘアエクステンションという付け毛の一種)の材料なのだ。だがそのコンテナに入っていたのは、人毛だけではなかった。毛髪の山の中からは、ひとりの少女の全裸死体が……。

 『自殺サークル』や『紀子の食卓』など、ホラーやサスペンス風のドラマに現代日本の現実をシャープに切り取る園子温監督の新作だ。この映画もホラー映画仕立て。しかしこれが、相当の変化球なのだ。映画の導入部は普通のサスペンス映画風。港の倉庫から見つかった髪の毛の山と少女の遺体。やがて警察の遺体処理係が奇妙なキャラクターを少しずつ明らかにしていくあたりから、話が奇妙な方向へとずれていく。この死体係を演じているのが大杉漣。髪の毛フェチのこの男が、処分寸前の死体から髪の毛を盗んで、それでウイッグやエクステを作るというのがこの映画のタイトルにつながっていくわけだ。しかしこの大杉漣が、ちょっとすごい。ある時はヒッピー風、ある時はアキバ風のファッションで、歌ったり踊ったりするのだ。この男の周囲にだけ漂う、サイケデリックなミュージカル空間。

 この映画の主役は、一応、栗山千明が演じる美容師見習いの優子というヒロインだ。しかしこのヒロインは、大杉漣扮する髪フェチの死体係・山崎の起こす事件に巻き込まれる受動的な役回りであって、映画全体を支配的に動かしているのは山崎(大杉漣)個人と言っていいだろう。彼は髪の怨念に捕らえられてしまった被害者ではない。むしろ髪の魅力にはまりこんだ彼が、髪の怨念を増幅させ、ばらまいているとも言えるのだ。しかし問題なのは、髪の怨念とこの男の欲望の向かう先が、かなり食い違っているということ。山崎の怨念と髪の怨念はふたつの奔放なエネルギーとなって合流するが、その流れのベクトルが奇妙に交差していることから、映画の中で渦を巻き、不規則な蛇行を見せながらクライマックスの破局へと突き進んでいくことになる。

 実力派のバイプレイヤーとして映画やテレビに引っ張りだこの大杉漣だが、キャラクターの特異性で、この映画の山崎を超えるものはなかったように思う。少なくとも僕の知る限り、今回の役は最もパワフルかつクレイジーだ。山崎は髪の毛の怨念に取り憑かれたのではない。むしろ山崎が自分の意思で、髪の毛の呪いに取り憑き、その超自然な力を我がものにしたのだ。この映画はコンテナで発見された少女の死体からはじまるが、その少女がどこの何者なのかや、彼女が誰に殺されたのかなどといった、殺人ミステリーの謎解きにはまったく向かっていかない。映画が追いかけていくのは、山崎の暴走する狂気なのだ。髪の毛の呪いより、人間の方が恐い!

2月17日公開予定 池袋シネマサンシャインほか全国ロードショー
配給:東映
2007年|1時間48分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.exte-movie.jp/
DVD:エクステ
主題歌CD:ハルカ(町本絵里)
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