コワイ女

2006/11/02 CINEMART銀座試写室
「コワイ女」をキーワードにしたオムニバスホラー映画。
第2話『鋼』が抜群に面白い。by K. Hattori

 雨宮慶太監督の『カタカタ』、鈴木卓爾監督の『鋼―はがね―』、豊島圭介監督の『うけつぐもの』の3話からなるオムニバス・ホラー映画。上映時間は1時間47分なので、1話あたりの時間配分は30分強。妖怪めいた女がヒロインを追いかけるアクション・サスペンス・ホラーあり、青春と恋とセックスのほろ苦さを感じさせる不条理劇あり、日本的な密度の濃い母子関係を軸とする真理サスペンスありと、バラエティに富んだ内容でなかなか楽しませてくれる。

 第1話の『カタカタ』は、結婚間近の若い女性が自宅マンションで恐怖の体験をするという物語。彼女の身に起きたことが何なのか、彼女の迷い込んだ不可思議な世界は何なのかという疑問は、おそらくある程度の映画好きなら開始早々に何となく察しが付いてしまうのではないだろうか。これについては、映画の作り手側も、観客をその方向にリードしていこうとしているフシがある。その上でこの物語は、さらにもう一段ストーリーをひっくり返して見せるのだ。

 3つのエピソードの中では、この第1話がもっとも生理的な恐怖に訴えかけている。赤いワンピースの妖怪が恐い。恐怖に震え上がるというより、気持ち悪くてそばに寄って欲しくないのだ。恐怖というより、これは生理的嫌悪だ。アフレコの安っぽさや台詞の多さが最初から気になったが、これはこれで、この世界のちぐはぐさにうまくマッチしていたようにも思う。

 第2話の『鋼―はがね―』は、3つのエピソードの中ではもっとも楽しめた1本。若い童貞男の女性に対する性的ファンタジーと現実のギャップを、これほど詩的に、しかもリアルで残酷に描いた映画はなかなかないと思う。主人公の男がなんとなくデートしてしまう気持ちとか、彼女を嫌悪しつつも決定的には突き放せない気持ちなどが、僕には痛いほどよくわかる。僕にも同じような童貞男の時代があって、女性に対して似たような接し方をしていたことがあるからだ。(ただし相手の女性は、ズタ袋を被ってなかったけどね。)

 『鋼―はがね―』はひょっとしたら、ホラーという範疇を飛び越えてしまっているかもしれない。若い男のリアルな性を描いた映画として、これに匹敵するのは、浦山桐郎の『私が棄てた女』ぐらいしか思いつかない。ただしオチにもう少し工夫が欲しかった。内容的にはきわめてユニークなことをしているのに、最後のまとめが短編作品の常套句にはまり込んでいるのが残念。もっともこれは、難しい注文ではあるけれど。

 第3話の『うけつぐもの』は『呪怨』の清水崇監督が監修に名を連ねる作品で、オムニバス最後の締めくくりということもあって期待は高まった。しかしそのわりには、これが一番面白くなかったのが残念。母子二代に渡る悲劇の連鎖という物語と、少年が見た幻想、古びた土蔵への恐怖などが、最後までひとつにまとまらないまま終わってしまったような気がする。

11月25日公開予定 シネマート六本木、シネマート心斎橋
配給:アートポート
2006年|1時間47分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.kowai-onna.jp/
ホームページ
ホームページへ