ディパーテッド

2006/10/31 サロンパス丸の内ルーブル
香港映画『インファナル・アフェア』のハリウッド版リメイク。
監督はマーティン・スコセッシ。by K. Hattori

 香港ノワールの傑作『インファナル・アフェア』(02年)を、マーティン・スコセッシ監督が豪華キャストでリメイクした作品。『インファナル〜』はマフィア組織の栄枯盛衰を描く三部作のサガになっているが、『ディパーテッド』はその第1作目をベースにして、物語の舞台を香港からボストンに移殖している。警察とマフィアがそれぞれのスパイを相手方に送り込むという設定や、全体の話の流れと主要なエピソードなどは原作となった『インファナル〜』を踏まえているが、重要なところでの変更も多くて、単なるリメイクというよりは、翻案された別バージョンとでも言ったところだろうか。

 『インファナル・アフェア』に比べると、『ディパーテッド』はずっとリアリズム指向だ。『インファナル〜』はいい意味で香港映画らしい大胆なストーリー展開で、マフィアが警察学校にスパイを送り込み、逆に警察側が同じ学校からマフィアにスパイを送り込むという物語を成立させていた。これはこれでいい。香港映画ならこれもアリだ。しかしそれをスコセッシが再映画化するとなれば、このくだりはもっと現実味のあるもっともらしい話にしなければならない。その結果、『ディパーテッド』では警察のスパイがマフィアに潜り込むまでがやたらと長くなっている。何のバックボーンもないひとりの青年が、いかにしてマフィアのボスから信頼を獲得するのか。その細かな描写には説得力があり、潜入捜査ものとしてずっしりと重みのある作品に仕上がっている。

 どうしてもオリジナルの『インファナル・アフェア』と比べてしまう場面が多い中で、オリジナルの匂いを完全に払拭して独自のカラーを出していたのはジャック・ニコルソンだ。オリジナルではエリック・ツァンが演じていた役だが、これがニコルソンになるとキャラクターの根本からがらりと雰囲気が違ってくる。エリック・ツァンは小柄で優しい顔をした男が極端に凶暴で残虐な振る舞いをするという、『犯罪王リコ』のエドワード・G・ロビンソンや『民衆の敵』のジェームズ・キャグニーに通じるキャラクター。それに対してニコルソンは、最初から迫力満点の老ギャング。しかもそれが、ギラギラと欲望をむき出しにして周囲を暴力的に威圧するのだ。

 ボストンの街を牛耳り、アメリカ政府さえ震え上がらせるような大物ギャングになったにも関わらず、この男の「暴力への渇き」は納まらない。権力は手中にした。金も使い切れないほどある。ヤクにも女にもまったく不自由していない。そうこうしているうちに、年齢は老境に差しかかっている。しかしこの男は、足を洗って安穏と暮らそうとか、組織を部下に譲って悠々自適などということをはなから考えていない。常に不法取引の第一線に立ち、自らの手で歯向かう人間を殺し、危ない綱渡りを演じ続ける。この強烈なキャラクターを創造しただけでも、このリメイクには意味があったかもしれない。

(原題:The Departed)

2007年1月公開予定 サロンパスルーブル丸の内ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2006年|2時間32分|アメリカ|カラー|シネマスコープ・サイズ|SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/thedeparted/
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