ヘンダーソン夫人の贈り物

2006/09/15 松竹試写室
1930年代にイギリスで最初のヌード劇場を作った人々。
ショーの場面はとても素敵です。by K. Hattori

 1930年代のロンドン。夫を亡くして莫大な財産を相続したヘンダーソン夫人は、閉鎖され売りに出されていた小さな劇場を見つけて衝動買いする。劇場の名はウィンドミル(風車)。彼女はヴィヴィアン・ヴァンダムというユダヤ系の支配人を雇うが、彼の考えたノンストップ・レビューの企画は最初こそ大当たりするものの、間もなく周囲の劇場に手法を真似られて客足はガタ落ち。そこでヘンダーソン夫人が思いついたのは、パリの老舗レビュー小屋ムーランルージュ(赤い風車)にあやかって、劇場でヌードショーをするというものだった。だがそれを実現するには、劇場の風紀規制を担当している役所の許可を得なければならない。ヘンダーソン夫人は幼なじみのクロマー卿相手に抜群の政治手腕を発揮し、「舞台上でヌードの女性が微動だにしないなら」という条件でヌードショーの上演許可を獲得。かくしてウィンドミル劇場では、イギリス演劇界初のヌードショーが幕を開けるのだった。

 スティーヴン・フリアーズ監督の新作は、1930年代から60年代にかけてロンドンに実在した、ウィンドミル劇場の創設者たちを描いた物語だ。主人公のヘンダーソン夫人を演じるのはジュディ・デンチ。相棒のヴィヴィアン・ヴァンダムを演じたボブ・ホスキンスは、幼い頃にウィンドミル劇場のショーを実際に観たことがあるという。映画は1930年代の風俗を丁寧に描きながら、当時のショーの様子を再現している。その再現にかける情熱は、ウィンドミル劇場で実際に使用されていた歌詞を発掘して新しい曲を付けたり、出演するダンサーたちにジム通いをやめさせて1930年代のダンサーたちのふっくらした体型を再現するほどに徹底している。映画的な脚色と演出はあれど、そこには1930年代のショービジネス界が見事に再現されているように思う。オーディションの風景などは、1930年の映画『四十二番街』に登場するオーディション風景を観ているような気分だ。

 映画はショービジネスと政治や社会との関わりを描いているが、特に戦争は大きなテーマのひとつになっている。ヘンダーソン夫人は第一次世界大戦で一人息子を亡くしており、それが第二次大戦中の若い兵士たちとのエピソードにつながっていく。夫人がショーの花形スターと若い兵士のデートをセッティングするシーンは、この映画の中でも最もロマンチックで胸を締めつけられるような場面になっている。流れる曲はジェローム・カーンの名曲「オール・ザ・シングス・ユー・アー」。1939年のブロードウェイ・ミュージカルに使われた曲なので時代的にはピッタリ。

 映画としては焦点の定まらない部分もあって物足りないのだが、ショーの場面はとても素敵。実話をもとにした伝記映画ではなく、むしろ劇場主や支配人を主人公にした、異色のバックステージ・ミュージカルとして楽しむべき作品だと思います。

(原題:Mrs Henderson Presents)

12月23日公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:ディーエイチシー 配給協力:スリー・ジー・コミュニケーションズ
宣伝・問い合わせ:樂舎
2005年|1時間43分|イギリス|カラー|1:1.85|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://mrshenderson.jp/
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