オーロラ

2006/09/13 GAGA試写室
踊りを禁じられたお姫様が貧しい画家と恋をする……。
バレエで綴る美しいおとぎ話。by K. Hattori

 昔々あるところに、踊りを禁じた王様がおりました。美しい踊り子に恋して王妃に迎えた王様は、愛する妻が踊りを懐かしむことがないよう、国中で一切の踊りを禁じたのです。やがてふたりの間には、かわいいオーロラ姫とソラル王子が生まれます。ところがオーロラ姫は、子供の頃から踊りが大好き。何度禁じても諫めても、踊ることをやめません。でも弟のソラル王子は、姉の踊りが大好きなのでした。ある年のこと、大きな干ばつと洪水がこの国を襲います。大臣は国家財政を救うため、オーロラ姫を豊かな国の王子に嫁がせることを提案します。金庫に残っているのは、見合いとなる舞踏会がぎりぎり3回開けるだけのお金。王は渋々この提案を受け入れ、オーロラ姫のために舞踏会が催されることになるのですが……。

 パリ・オペラ座のダンサーたちを取材したドキュメンタリー映画『エトワール』のニルス・ダヴェルニエ監督が、初めて手がけたフィクション作品。おとぎ話風のストーリーに、タッチの異なるバレエシーンをいくつもからめた本格ダンス映画になっている。出演しているのはパリ・オペラ座をはじめとする、当代一流のダンサーや振付師たち。ただし物語のかなめとなる国王夫妻と大臣の役には、フランソワ・ベルレアンやキャロル・ブーケなど、ダンサーではない俳優をキャスティングしている。映画の中では踊るべき人が踊り、踊る必要が内皮とは踊らない。普通のお芝居が突然ダンスに取って代わられるような、ミュージカル調の演出は皆無だ。

 映画冒頭からオーロラ姫のソロダンスが何度か披露される他、見合いの舞踏会で3人の王子がそれぞれの国のダンスを披露するダイナミックな群舞シーン、そして映画の終盤ではオーロラ姫と恋人が雲の中でダンスをするというのが全体の流れ。ダンスシーンは確かにスゴイ。しかしこれはいかにして物語に多くのダンスを配するかが優先されたような筋立てで、正直この「お話」が僕にはちょっと物足りなかった。バレエ映画の古典と言えばマイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーの『赤い靴』ということになるのだが、現代劇である『赤い靴』にあった寓話としての面白さが、おとぎ話である『オーロラ』には感じられないのだ。

 ひとりの幼い少女が、恋をすることで成熟した大人の女性になるというテーマはわかるし、ヒロインを演じたマルゴ・シャトリエが、幼い少女から男を誘惑する女へと変身していく過程にも説得力がある。でもこれは、そこで行き止まりなのだ。あともう一歩突き抜けて、恋をすることの特権性や傲慢さ、恋のためなら何もかも犠牲にするという残酷さまで感じられると、この映画はバレエ映画の新しい古典になっていただろう。

 映像は美しく、ひとつひとつの場面がそのまま絵はがきになるような絵画的美意識で統一されている。あまり欲張らず、1時間36分のおとぎ話を堪能すべき作品なのかもしれない。

(原題:Aurore)

お正月公開予定 Bunkamuraル・シネマ、シャンテシネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
2006年|1時間36分|フランス|カラー|ビスタ|ドルビーSR、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.aurore.jp/
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