16ブロック

2006/08/18 SPE試写室
それは証人を目と鼻の先にある裁判所に送る簡単な仕事だった。
脚本のアイデアと演出の冴えに醉う。by K. Hattori

 ジャック・モーズリーはNY市警のベテラン刑事。しかし捜査の一線から離れてからは酒に溺れ、仕事中も酒臭い息で充血した目をギラつかせている有り様だ。ある朝、夜勤明けで体調最悪の彼に上司が命じた残業仕事。それは留置場にいる黒人の若い男エディを、証人として裁判所に送り届けるというものだった。警察と裁判所の距離は16ブロック、およそ1.6キロ。車で移動すればたった15分という簡単な仕事。だがこの短い距離を移動中、何者かがエディを襲撃してくる。とっさに相手を射殺し、エディを連れて逃げ出したジャックは、応援のためやって来た同僚警官からとんでもない事実を知らされる……。

 証人護送中の刑事が、本来なら自分を守ってくれるはずの警官たちに追われるというサスペンス・アクション映画。主演はブルース・ウィリス。監督はリチャード・ドナー。生い立ちも性格も境遇も違うふたりの男が偶然の巡り合わせでコンビを組み、好むと好まざるとに関わらず一緒に旅をする中でさまざまな事件に出会い、さまざまな人に出会う。やがてふたりは友情を深め、かけがえのない絆を作っていくのだ。要するにこれはロードムービーであり、バディムービー。似たようなコンセプトの映画は、これまでにもたくさん作られている。しかしこの映画はその手の映画の中で、移動距離がもっとも短く、移動に要する時間ももっとも短いものとして映画史に残るのではないだろうか。なにしろ移動距離はたった1キロ半。所要時間は2時間に満たないのだ。

 主人公たちの目的はただひとつ。「2時間以内(午前10時まで)に16ブロック先の裁判所に行く」ということだけだ。この単純明快な目的を達成するのが、いかに困難で複雑な事態を招いてしまうのか。絶体絶命の難関をいくつも設けて、主人公たちがそれをいかに突破していくかを描く脚本の面白さ。裁判所に向かおうとする主人公たちも、それを阻止しようとする警官たちも、知恵と体力を振り絞って火花の散る戦いを続ける。この1キロ半、2時間たらずの攻防の中に、それぞれの人生が、それぞれの生きてきた道筋が、そしてこれからの人生の有り様が、ギュッと凝縮されているのだ。

 主演のブルース・ウィリスは疲れた悲しい目で、タフガイの地位から降りてしまった男を好演。敵役を演じるデヴィッド・モースも重量感のある芝居を見せる。しかしこの映画で最大の収穫は、エディ役のモス・デフだろう。最初から最後までとにかく喋りっぱなし。のべつ幕なしに喋りに喋っているこの男が、不機嫌そうに黙りこくっているウィリスと好対照なのだ。

 映画のテーマは「人間は変われる」ということ。これは古今東西あらゆる映画の共通テーマでもある。映画の中ではいつだって、主人公がある境遇や心持ちから、別の境遇と心持ちに変化するものだ。この映画では、主人公たちの「変わりたい」という願いが実現するところに感動がある。

(原題:16 Blocks)

10月公開予定 新宿ミラノ3ほか全国洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2006年|1時間41分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、SRD
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/16blocks/
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