ミラクルバナナ

2006/08/17 シネマート試写室
捨てられているバナナの木から紙が作られる!
実話をもとにした映画。by K. Hattori

 中米カリブ海にあるハイチ共和国は、西半球でもっとも貧しいと言われる発展途上国。日本大使館の職員としてハイチに赴任した三島幸子は、島民たちの貧しい暮らしを改善するために、自分に何かできないかと試行錯誤する。特に彼女の心をとらえたのは、学校に通うことさえままならず、学校に通ってもまともに文房具さえ揃えられない子供たちの姿だった。幸子はある日偶然、バナナの木から紙が作れることを知る。バナナはハイチでも作られている。廃棄物であるバナナの木から紙を作れば、多少なりとも島の経済に貢献できるかもしれない……。

 バナナの木から紙を作ることで、発展途上国の自立経済の一助にしようとするプロジェクトは実在するという。この映画はそんな活動を紹介した絵本「ミラクルバナナ」をもとに、実際のプロジェクトに関わった人たちへの取材を重ね、まったく新たに作られたオリジナルストーリーだ。実話ではない。実録ともうたっていない。しかし劇中木人物にはそれぞれモデルがいるようで、例えばバナナペーパーの提唱者として登場する森山紘一教授は、映画にも協力している森島紘史教授がモデルだろうし、映画のヒロイン同様、ハイチで大使館の派遣員として働いていた女性も実在するようだ。

 監督は『守ってあげたい』『白い船』の錦織良成。楽天家で能天気とも思えるヒロインが、異質な環境の中で孤軍奮闘するというストーリーは新米女性自衛官の成長ぶりを描いた『守ってあげたい』に通じるが、今回の映画は主演の小山田サユリの好演が光った。面接で「赴任先はハイチでいいんですね?」と年押しされて「ハイ!」と答えたものの、じつはハイチをタヒチと勘違いしていたというトボケた導入部。それでも「まあいいか!」と現地に乗り込み、政情不安なハイチのホテルで、夜は銃声を聞きながらぐっすり寝てしまうという太々しいまでの頼もしさ。これだけで映画を観ている方は、「このヒロインなら今後どんな障害があろうとそれを乗り越えていくだろう!」と安心できる。

 ヒロインがハイチの大使館で前任者と交代するシーンは、黒澤明の『赤ひげ』の導入部に似ている。バラエティ番組でお馴染みの顔、アドゴニーが演じる大使館の現地職員のナレーションも、映画におとぎ話のような雰囲気を作り上げている。ただしこのナレーションが常に観客とヒロインの間に立ちふさがることによって、ヒロインと観客の距離が遠くなってしまうデメリットもある。ナラタージュ技法はもっと限定させて、ヒロインを観客に引き寄せてほしかった。

 観客は最初からバナナペーバーの話だと知っているのだから、紙作りの苦労をもっとたっぷり描いてほしかったようにも思う。バナナペーバーについて大げさにぶち上げたわりには、映画の締めくくりは竜頭蛇尾の感も。ここはナラタージュ技法で観客に「嘘」をついてでも、バナナペーパーの大成功を伝えてほしかった。

9月16日公開予定 シネマート六本木
宣伝:る・ひまわり
2005年|1時間45分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTSサラウンド
関連ホームページ:http://www.miracle-banana.com/
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