百年恋歌

2006/07/14 メディアボックス試写室
一組のカップルが百年の時を疾駆するオムニバス映画。
物語の構成に一工夫してある。by K. Hattori

 1911年の遊廓、1966年のビリヤード場、そして2005年の現代を舞台に、スー・チーとチャン・チェン扮する3組のカップルの恋模様を描いたオムニバス作品。監督は『悲情城市』のホウ・シャオシェン。3つの物語はそれぞれ独立しているが、主演のふたり以外にも出演者には共通の人たちが多い。物語にはまったく連続性がなく、これはホウ・シャオシェン一座に集まった役者たちが、3つの異なる出し物を演じているようなもの。上映時間は2時間11分。ひとつのエピソードで40分強という時間配分になる。時計を見ていたが、各エピソードは大きな長短もなく、それぞれほぼ均等の時間配分になっていたようだ。

 エピソードが時代順になっておらず、1966年から始まっている。なぜだろうか? これはおそらく1966年の青春という素材こそが、監督にとって最も身近なものだったからだろう。ホウ監督は1947年生まれなので、1966年には19歳。ちょうどこのエピソードの登場人物たちと同じぐらいの年頃だ。ビリヤード好きでビリヤード場に入り浸っていたという監督にとって、このエピソードは一種の自画像になっているのかもしれない。3つのエピソードの中で、これが最も素直な語り口になっている。

 最初のエピソードが監督の身近なところから出発したのだとすれば、おそらくその後のふたつのエピソードについても、近くから遠くへという順序なのではないだろうか。2番目のエピソードは1911年の遊廓が舞台だが、監督はかつて『フラワーズ・オブ・シャンハイ』で、遊廓の世界を描いたことがある。今回の映画では19世紀末の上海ではなく、20世紀初頭の台湾に舞台が移されているが、たぶんホウ監督はこうした世界が好きなのだろう。このエピソードには映画的な仕掛けがほどこされている。それはこのエピソードだけ、台詞が字幕で挿入されるサイレント映画の形式になっているのだ。サイレントにすることで登場人物たちの台詞は実際以上に切り詰められ、言葉にならない登場人物たちの思いがより強調されることになった。男の鈍感さと、そんな男を愛する女のいらだちや焦り。気持ちがかみ合わないもどかしさは、サイレント映画という手法により一層際立っている。

 最も素直な1966年のエピソード、サイレント映画という奇手に出た1911年のエピソードに比べると、2005年のエピソードは最も挑発的で最も構成が見えにくくなっている。主人公カップルの関係も、それまでの一対一のシンプルなものから、互いに恋人がいるのに惹かれ合うという複雑さだ。恋の進展は回を追うごとに複雑にねじれていく。第1話(の穏やかで微笑ましいエンディングから、荒涼とした第3話のラストへ。しかし第1話もこれがハッピーエンドとは限らないし、むしろ第3話がハッピーエンディングなのかもしれない。恋は一筋縄ではいかないのだ。

(原題:最好的時光)

秋公開予定 シネスイッチ銀座
配給:プレノンアッシュ
2005年|2時間11分|台湾|カラー|ビスタ(1:1.85)|ドルビーSR、SRD
関連ホームページ:http://www.prenomh.com/
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