Life Cinematic

ライフ シネマティック

映画的人生(1)

2006/06/28 サンプルDVD
黒澤明文化振興財団主催の短編映画コンペから、
上位8作品をセレクトして上映。by K. Hattori

 応募者の国籍やキャリアは問わない。上映時間は「10分」。テーマは「人生」。そんな条件で世界中から作品を募った、「黒澤明記念ショートフィルム・コンペティション」の上位8作品。このコンペは今回が第1回目ということだが、応募に対して国内から377、海外から101の計478作品が集まったという。短編映画のコンペで、この応募数が多いのか少ないのかはよくわからない。しかしここに集められた映画を観る限り、作品のレベルは玉石混淆。10分間という時間の制限があるのはわかるが、それにしてもちょっとね……という内容だ。

 こうしたコンペは回数を重ねていく中で、徐々に作品のレベルが上がっていくものだと思う。新しい映画コンクールが、いきなりレベルの高い作品を集めるのは難しいのだ。東京国際映画祭を見よ。もう20回近くやっているのに、(内情はよく知らないが)毎回目ぼしい作品を集めるのにとても苦労していそうではないか。「黒澤明記念ショートフィルム・コンペティション」も、とにかく長く続けてほしい。とりあえず第2回目の作品募集が始まっているようだが、今後もずっと同じ条件で5年10年と作品を募集し続けていれば、いつかは世界的に権威のある短編映画祭として、若手の映画作家から一目置かれるようになるかもしれない。

 今回の劇場公開では1作品10分の作品8本が上映されるので、本編だけなら単純に80分になるはず。しかし作品のイントロや間にちょっとした映像を混ぜて、全体としては90分のオムニバス映画に構成されている。10分間は人生や時間についての古今東西の金言や、上映終了までの時間を示す時計の数字などと構成された映像が流れるのだが、この幕間映像が各作品の間を仕切ると同時に、前の作品の印象を洗い流す役割を果たしている。オムニバス映画では案内役を立てる場合もあるが、それよりはこうした映像と字幕だけで処理する方がよほどスマートだろう。

 8作品の内訳は、グランプリ1作品、準グランプリ1作品、奨励賞4作品、ノミネート2作品。グランプリになった『The Kitchen』はひとつのキッチンを舞台に、ほとんど会話を交わすことのない家族の凍てついた風景を描いた作品。最初から最後まで1カットだが、ほとんど真横からに近い照明や、カメラがゆっくり被写体に近づいたり遠ざかったり動きなど、作り手がこの10分をかなり練り上げた形跡がうかがえる。これは他の作品に比べると抜群に上手かった。

 作り込みという点では、準グランプリの『Making Life Work』も面白いし、ノミネート作の『Epitome』もいい。ただし他の作品を見ると、10分間を持て余しているものもあれば、窮屈になっているものもあって、10分きちんと構成するのは簡単なようでじつは結構ハードルが高そうなのだ。「人生」というテーマはともかく、「10分」という縛りは面白いぞ。

6月24日〜30日公開 シアターN渋谷
配給:ステップ・バイ・ステップ
2006年|1時間30分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.kurosawa-foundation.com/
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