ハイジ

2006/06/01 GAGA試写室
アニメでお馴染み「アルプスの少女ハイジ」の実写版。
楽しいけど物語は駆け足の印象。by K. Hattori

 過去に何度も映画やドラマやアニメになったヨハンナ・スピリの同名小説を、新たに実写映画化した作品。日本人にとって「ハイジ」と言えば、世界名作劇場で1年に渡って放送されたテレビアニメこそが決定版。これは1974年放送だというから、もう30年以上も前の作品なのだ。実写映画はサイレント時代から何本も作られているし、何度かテレビドラマやテレビシリーズにもなっている。1989年には『アルプスを越えて』という続編映画で、チャーリー・シーンが成長したペーターを演じてもいる。時代背景を現代に移した翻案映画もあるそうだ。今回の映画はそうしたゲテモノ(失礼)ではなく、原作に沿ってイギリスで作られた最新の英語版だ。物語の舞台はスイスとドイツだが、撮影は今も昔の風景画残るスロベニアで行われたという。

 物語は原作通りに進行し、アルムおんじが村に戻ることを村人たちが歓迎する場面もあれば、クララの出現にペーターが焼き餅をやいて彼女の車椅子を壊してしまうのも、クララの主治医が村への移住を決めてハイジの後見人になるのもちゃんと原作通り。全体として見れば、原作を1時間44分にうまくダイジェストしてあると思う。だがこの時間では、どうしても物語が全体に駆け足になる。アルプスの美しい風景を徒歩や登山電車でのんびりと眺めていたいのに、特急列車であっと言う間に通過してしまうような雰囲気だ。

 ハイジはアルムおんじの家に引き取られた途端に、再びデーテ叔母さんに手を引かれてフランクフルトに連れて行かれてしまう。これではなぜハイジがスイスに戻りたくて、病気にまでなってしまうのかがわからない。アルムおんじがなぜハイジに心を開くのか、なぜハイジが去ったことで深く傷つくのか、ハイジが戻ってきたときに即座に受け入れられなくなってしまったのか、その気持ちをうまく消化しきれていない。ペーターの焼き餅やいらだちも、それ以前に彼とハイジが仲良しだったことが観客によく伝わっていないと不合理なものに思えてしまう。こうした人物たちの気持ちの移ろいは、もちろん「理屈」ではわかる。しかし人間の気持ちは「理屈」ではなく、もっと「感覚」的なものだ。この映画はあまりにも急ぎすぎで、観ているこちらが「感覚」で登場人物たちの気持ちをつかみ取る前に、物語が先へ先へと進んでしまうのだ。

 登場人物のキャスティングがなかなか秀逸。ハイジ役のエマ・ボルシャーや、アルムおんじ役のマックス・フォン・シドー、ロッテンマイヤー夫人役のジェラルディン・チャップリン、デーテ叔母さん役のポーリン・マクリンなどはぴったりの配役に思えるし、ペーターや彼の母と祖母、ゼーゼマンさんとゼーゼマン夫人、執事のセバスチャン、ハイジが街で出会う少年なども素晴らしい。しかしクララは、これでいいのかな〜。ちょっと意地悪そうな顔に見えてしまって、映画を観ていてハラハラさせられました。

(原題:Heidi)

7月公開予定 恵比寿ガーデンシネマ、シネ・リーブル池袋
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:キャガ宣伝【春】×【夏】
2005年|1時間44分|イギリス|カラー|ビスタ|SR、DIGITAL
関連ホームページ:http://www.heidi-movie.jp/
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