ポセイドン

2006/05/24 ワーナー試写室
1972年の映画『ポセイドン・アドベンチャー』を再映画化。
ドラマの展開がやや駆け足だ。by K. Hattori

 1972年に製作されたパニック映画の古典『ポセイドン・アドベンチャー』を、ウォルフガング・ペーターゼン監督がリメイクした作品。豪華客船が津波で転覆し、取り残された乗員乗客の一部が脱出ルートを探し求めるという物語だ。オリジナル版とは登場人物の設定が変えてあるので、オリジナル版を繰り返し観ている人も、まったく別の新しい映画として楽しめるに違いない。

 映画最大の見どころは、ポセイドン号が突然の大波にあっと言う間に転覆するスペクタクル場面。巨大波の強烈なエネルギーで、船体が悲鳴を上げながら傾き、天地がひっくり返った船内はメチャメチャに破壊される。34年前のオリジナル版も同じ場面は迫力満点だったが、今回の映画は最新のCG技術を使って、大波によって船外に押し出される人の姿や、甲板のプールの水ごと人が流されていく様子などを丁寧に描き出す。傾いた船内で押し寄せる什器に押しつぶされる人、火災で火だるまになる人間たち、落下物に押しつぶされる人もいれば、床から天井に墜落死する人もいる。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 天地が逆転したセットはオリジナル版の大きな目玉だったが、この映画ではそこにあまり面白味がない。豪華客船は海に浮かぶ巨大ホテルだから、客室や乗客用の廊下などを通れば、そこには天地逆転の奇妙な風景が広がっているはず。しかしこの映画の主人公たちは厨房や通気孔など、無機質な空間を通って行くことが多いのでそうした逆転世界の面白さは半減している。オリジナル版との差別化を狙ったのかもしれないが、これはちょっと残念だった。

 この手のパニック映画では、未曾有の災害に巻き込まれた人それぞれの人生模様が、少しずつ浮き彫りになっていくもの。この映画でも主人公グループは年齢も性別も職業もバラバラで、このグループ内で一波瀾も二波瀾もありそうな気配が濃厚。ところがなぜか、この映画では人間ドラマをほとんど描かない。善良な人が死んで悪党が生き残る運命の皮肉や不条理も、周囲から嫌われていた男が最後に見せる勇気や優しさもまったくない。ここでは善良な人が最後まで生き延び、悪い奴は最初に死ぬのだ。なんでこうなってしまうのかな〜。

 栗林輝夫の「シネマで読む旧約聖書」によれば、オリジナル版の『ポセイドン・アドベンチャー』は旧約聖書の出エジプト記、モーゼに率いられたイスラエルの民がエジプトを脱出して約束の地カナンを目指す旅を下敷きにしているのだという。船の名前となったポセイドンはギリシャ神話に登場する神(つまりキリスト教から見れば異教の神)の名前。そこからの脱出を導く主人公は、キリスト教の牧師だった。しかし今回の映画は、そうした宗教的なモチーフを物語から完全に排除している。

 物語はテンポよく進んでいくが、テンポがよすぎて命懸けの脱出もゲーム感覚。これもまた、物語の印象を薄っぺらにしてしまった原因だ。ちょっと残念。

(原題:Poseidon)

6月3日公開予定 丸の内ピカデリー1ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2006年|1時間38分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SR、SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://www.poseidon-movie.jp/
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