夢駆ける馬ドリーマー

2006/05/19 ヤクルトホール
骨折した馬が奇跡のカンバックを遂げた実話を映画化。
誰の人生にも二度目のチャンスがある。by K. Hattori

 映画の原題は『Dreamer: Inspired by a True Story』で、この映画が実話をベースにしていることを宣言している。モデルになったのは1990年代半ばまで活躍したマライアズストームという競走馬。骨折して一時は安楽死を検討されたこの馬は、治療とリハビリに耐えてレースに復帰して幾つかの大きなレースに勝利したという。サラブレッドは一度骨折すると安楽死させるのが常識で、これまでにも数多くの優秀な馬が骨折により命を断たれてきた。そうしたことを知っていると、骨折した馬を治療しようとする主人公たちの行動がいかに無謀なものなのかがわかるはずだ。

 邦題の『夢駆ける馬ドリーマー』から、僕はこの映画に登場する馬が「ドリーマー」という名前なのだとばかり思ったのだが、劇中に登場する馬の名前はソーニャドール(ソーニャ)という。もっともソーニャドールという名はスペイン語で「夢見る人=ドリーマー」という意味だと劇中で解説されるので、馬の名前がドリーマーだという解釈もあながち間違いではない。しかし原題の『Dreamer』という言葉は、この馬のことだけを指しているわけではなさそうだ。むしろこの馬の復活に賭ける、この映画の登場人物全体を象徴的に示したもなのだ。骨折した馬は再起してレースに挑む。農場経営に失敗した男は、この馬を通じて再び農場経営に乗り出すきっかけをつかむ。落馬事故で心に強い恐怖を植えつけられた元騎手は、馬の復活と同時に競馬界に復帰する勇気を得る。この映画の主人公たちはそれぞれの「夢」を、一頭の傷ついた馬に託すのだ。

 この映画は人生に再挑戦しようとする人たちへの応援歌だ。失敗して、傷ついて、もうこれで万事休すと思ったとしても、困難に立ち向かう勇気さえあれば道は開ける。大切なのは、自分の力を信じること。物語の中で中心になるのは、父から受け継いだ牧場の経営に失敗した男が、家族や周囲の人たちに支えられつつ、一頭の馬に自らの人生を賭ける姿。ここでは娘に馬の権利を譲ることで、家族の伝統が父から息子へ渡され、そこからさらに娘へと継承されていく。これは自分の子供や孫のために一財産を残してやろうとか、そうした目先の欲得のために動いているわけではない。守ろうとしているのは金ではないし、牧場でもない。守ろうとしているのは家族であり、人間としての尊厳なのだ。

 カート・ラッセルが牧場経営に失敗したベテラン・トレーナーを演じているが、その父親を演じたクリス・クリストファーソンの土臭い存在感や、妻を演じたエリザベス・シューの爽やかな振る舞い、娘役のダコタ・ファニングの屈託のなさもいい。厩務員役のルイス・ガスマンも小さな役だが好印象。残念なのはソーニャの騎手として現役に返り咲く元騎手の役が、親子関係を軸にしたこの映画の中からはじき出されて、あまりうまく機能していなかったことぐらいだ。

(原題:Dreamer: Inspired by a True Story)

5月27日公開予定 日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系
配給:アスミック・エース 宣伝:メディアボックス
2005年|1時間46分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.yumekakeru-uma.com/
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