柔道龍虎房

2006/04/06 シネカノン試写室
ジョニー・トウが香港を舞台に描く熱血柔道映画。
日本語の主題歌が強烈な印象を残す。by K. Hattori

 映画スターや監督の名前では映画館に客が入らなくなってしまった時代だが、それでもなお、「この人の映画は観ておかねばなるまい!」と映画ファンに新作を心待ちにさせる監督がいる。『ザ・ミッション/非情の掟』や『PTU』のジョニー・トウも、そんな監督のひとりだろう。ハードな犯罪バイオレンス映画から、ハチャメチャなラブコメまで守備範囲が広い。映画を実際に観るまで、どんな球が飛んでくるかわからない奇襲の楽しみ。さらにこの人の映画はエピソードの演出に必要以上に過剰なノリがあり、それが観る者をしびれさせるのだ。もちろんこの過剰さは、ツボにはまったときは最高に効果的なのだが、ツボから外れると観客には意味不明で白けさせてしまう。しかしジョニー・トウ監督の場合、この過剰さがもはや彼個人の芸風にまで昇華しており、ツボにはまろうとツボをはずそうと、一向に構わないお馴染みの持ちネタと化しているようにも思う。

 今回の『柔道龍虎房』は、正直言って全編ツボをはずしまくりである。しかしジョニー・トウの映画に親しんでいる人なら、話が面白いか否かなど無関係だ。この映画ではトウ監督の持ち芸が存分に発揮されていて、それだけで十分に映画を楽しめる。富田常雄の「姿三四郎」を何度も引き合いに出す熱血柔道映画で、物語の最後には「姿三四郎」を最初に映画化した黒澤明監督への献辞が出る。しかしお話そのものは、黒澤明の『姿三四郎』と無関係。1970年に日本で作られた竹脇無我主演のテレビドラマ「姿三四郎」のテーマ曲が劇中では何度か歌われるが、このドラマは黒澤明とは特に関係なし。でもカルバン・チョイ演じるチンという男の風体は、黒澤版『姿三四郎』の檜垣源之助(月形龍之介)にちょっと雰囲気が似ているかも。本人は映画の中で、「オレ姿三四郎。オマエ檜垣。ワハハハハ!」と言ってたけど。クライマックスの夜の草原での決闘というのは、黒澤版『姿三四郎』と同じ。でもこの映画は全体が低予算チックで、この決闘シーンもどこか安っぽい。しかし、ジョニー・トウが好きな人はこの安っぽさすら許容してしまうだろう。この安っぽい舞台で繰り広げられる過剰なまでに熱い戦いに、ついつい引き込まれてしまうのだ。

 ほんの数年前まで香港の柔道界では負けなしの強さを誇り、柔道小金剛の異名を取っていたシト・ポウ。しかし今では酒場の雇われ店長として、借金まみれ、酒びたりの毎日を送っていた。そんな彼の前に、伝説の柔道小金剛との勝負を望む青年トニーが現れる。「勝負だ!」と挑みかかってくる彼を「勝負は後回しだ」と遮り、一緒に盛り場のゲームセンターに行くポウ。彼はそこで、ヤクザの金を強奪しようとするのだが……。

 何者でもない人間が、何者かになろうとジタバタするのが、僕の定義する青春映画だ。この映画はその定義にピッタリとはまる。中でも歌手を目指しているシウモンというヒロインがいい。

(原題:柔道龍虎榜 Throw Down)

5月13日公開予定 キネカ大森、銀座シネパトス(レイト)
配給・宣伝:ステップ・バイ・ステップ、デックスエンタテインメント
2004年|1時間35分|香港|カラー|シネマスコープ|SRD
関連ホームページ:http://www.judo-ryukobo.com/
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