Vフォー・ヴェンデッタ

2006/03/24 ワーナー試写室
グラフィック・ノベルが原作のダークヒーローもの。
テロリズムを礼賛する過激な映画。by K. Hattori

 タイトルがよくわからないのだが、これは原題をそのままカタカナにしたもの。似たような原題を持つ映画には、ヒッチコックの『Dial M for Murder(ダイヤルMを廻せ!)』がある。「Vendetta(血の復讐)」にしろ「Murder(殺人)」にしろ物騒な言葉だが、このタイトルは観客に、アルファベットのたった1文字から血なまぐさい行為を連想するよう求めている。

 物語の舞台は近未来のイギリス。世界戦争大戦後に独裁国家となったイギリスでは、夜間外出を禁じる戒厳令と粗暴な自警団、徹底した言論弾圧によって、政府に反抗する人々を押さえつけていた。11月5日の夜。夜間外出中に自警団に逮捕されそうになったイヴィーは、危機一髪のところで仮面を着けた謎の男に助けられる。彼はその晩、町中心部にある政府の建物を爆破した。警察は仮面の男を追うと共に、イヴィーを重要参考人として追うことになる。

 主人公のVを演じているのは『マトリックス』や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのヒューゴ・ウィービングだだ、これは最初から最後までまったく素顔を見せないという特異な役柄になっている。最後に顔がちらりと見えるとか、回想シーンで素顔を見せるといったことすらないのだ。Vの正体を巡って警察がかなり突っ込んだ捜査をするが、それでも最後の最後まで正体はわからない。しかしこの匿名性が、感動的な映画のラストシーンにつながっていく。これには不覚にも涙がこぼれてしまった。

 Vの仮面のモデルになっているのは、1605年11月5日に英国国会議事堂の爆破未遂事件を起こし、翌年処刑されたガイ・フォークスという人物。今でもイギリスでは11月5日を「ガイ・フォークス・デー」として記念し、その夜は多数の花火が打ち上げられるのだという。別名「焚き火の夜(Bonfire Night)」あるいは「花火の夜(Firework Night)」というこの行事の存在を知っていると、この映画の世界がより身近に感じられるかもしれない。

 映画の主人公は独裁政府に反抗するテロリストで、ヒロインも彼を支持する立場。原作は1980年代にイギリスで発表されたグラフィック・ノベルだが、劇中の独裁国家のモデルはサッチャー政権下の超保守化したイギリスだという。しかしそれが2006年の現代に映画化されると、同時多発テロ後に急速に保守化が進んだアメリカ合衆国そのものの写し絵に見えてくる。テレビで国民に向かって愛国心を訴える政治家が、キリスト教信仰を強調してその他の宗教を揶揄し、政府に批判的な人々や、自由主義者、同性愛者を糾弾する。劇中の独裁国家はビジュアル面でもヒトラーのナチスを下敷きにしていることは明白なのだが、それが現代アメリカのパロディのように見えてくる。これは当然、製作者たちの意図するものだろう。これは9.11後の世界を、裏側から描いた問題作だ。

(原題:V for Vendetta)

4月22日公開予定 渋谷東急ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2006年|2時間12分|アメリカ|カラー|シネマスコープ・サイズ|SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://v-for-vendetta.jp/
ホームページ
ホームページへ