SPIRIT

2006/03/08 ワーナー映画試写室
伝説の中国人格闘家・フォ・ユァンジアの伝記映画。
ジェット・リーと中村獅童が一騎討ち。by K. Hattori

 伝説のアクション俳優ブルース・リーの代表作『ドラゴン怒りの鉄拳』は、20世紀初頭の上海で活躍した中国人武術家が日本人に毒殺され、怒りに燃えた弟子が犯人の日本人に復讐するという物語だった。殺された中国人武術家の名はフォ・ユァンジア(霍元甲)で、実際に上海で精武体育会を創設した人物。ジェット・リーの新作『SPIRIT』は、この伝説の武道家の生涯を描いた実録アクション巨編だ。監督はハリウッドでも活躍するロニー・ユー。アクション監督はユエン・ウーピン。主人公と最後に戦う日本人武道家を演じているのは中村獅童。物語はふたりの決戦から始まり、回想シーンを経て再びこの決戦をたっぷりと見せる構成。映画は主人公の死で終わるので、この映画は『ドラゴン怒りの鉄拳』の前史と言うこともできるのだ。

 物語は19世紀末の天津。若くて才能あふれる武術家フォ・ユァンジアは自らの技と力を過信し、ライバルの武術家や友人たちを容赦なく傷つける。この結果彼は深い恨みを買い、自分の大切な家族を失うことになった。失意のユァンジアは天津を去り、山里での暮らしで少しずつ人間らしい優しさを取り戻す。やがて天津に戻ったユァンジアが見たのは、外国人に蹂躙されている中国人たちの卑屈な姿だった。体格に優る外国人拳闘家は「中国拳法恐るにたらず」と豪語し、新聞を通じて挑戦者を募集している。これに応えなければ、中国人は外国人の前で卑屈に腰をかがめたままになってしまう。ユァンジアはこの外人ボクサーと戦う決意をするのだが……。

 見どころは映画全編に渡るアクションシーンの数々。ジェット・リーは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズでも、ユエン・ウーピンのアクション演出で実在の武術家ウォン・フェイフォン(黄飛鴻)を演じていたが、あちらは方向性としてはアクション・コメディだから見せ方重視でアクロバットのような荒唐無稽さも許された。しかし『SPIRIT』はリアリズムだ。あの手この手で積み重ねられたアクションは迫力満点。これは現時点で、ジェット・リーという俳優が見せられる最大限のアクションだと思う。中村獅童はちょっと心配だったが、ジェット・リーと戦ってもさほど見劣りしない。ふたりがちゃんと互角に戦っているように見えるのだ。これが香港に蓄積されたアクション演出というものだろう。

 フォ・ユァンジアが日本人に毒殺されたというのは今や定説になっているそうだが、実際のところ彼は子供の頃から体が弱く、体力を付けるために気功の訓練に熱中した結果、胸を痛めて死んだらしい。しかしそうした地味な実話より、中国の英雄が卑劣な日本人に殺された!という話の方が面白いので、伝説の英雄フォ・ユァンジアの「伝説」として、日本人による暗殺説というのが定着しているのだろう。それは『ドラゴン怒りの鉄拳』から『SPIRIT』まで一貫している。

(原題:霍元甲)

※この映画の主題歌は本作のため書き下ろされたジェイ・チョウの「霍元甲」だが、日本公開版ではエンドロール曲がHIGH and MIGHTY COLORの「罪」に差し替えられ、「霍元甲」は映画のキャンペーンソングとして使用されることになった。

3月18日公開予定 丸の内ルーブルほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2006年|1時間44分|中国|カラー|シネマスコープサイズ|SR、SRD
関連ホームページ:http://www.spirit-movie.net/
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