ダック・シーズン

2006/02/22 メディアボックス試写室
少年ふたりが留守番するアパートで大騒ぎが発生。
メキシコのインディーズ映画。by K. Hattori

 母親が外出し、アパートの一室で友人モコと一緒に留守番することになったフラマ。ここぞとばかりにテレビゲームに熱中する少年たちだが、ゲームが佳境に入った場面で突然の停電。ちょうど腹も減ったところなので、宅配ピザでも注文しよう。エレベーターが停電で動かなくなっているため、ピザの配達員ウリセスはアパート上層階まで徒歩で駆け上がる。息切れして汗だくでドアにたどり着いたものの、注文主のフラマとモコはピザの代金を払おうとしない。指定時間の30分以内に配達できなかったペナルティだと言う。オーバーした時間はわずか数十秒。「金を払え」「払わない」の押し問答をする中で電源が回復。フラマとウリセスは、テレビゲームで決着を付けることにするのだが……。

 アパートの一室に他人同士の4人が集まり、半日ほどの間にさまざまなドラマが生まれるというメキシコのインディーズ映画。フェルナンド・エインビッケという若い監督の初長編作品であり、全編モノクロというストイックな作風はかつてのジム・ジャームッシュなとに通じる「インディーズ臭」を放っている。映画のほとんどがアパートの一室を舞台にしているのだが、自然光を多用し、入念なリハーサルで芝居を煮詰めてからカメラを回すスタイルで、5週間かけて撮影したという。自然光の撮影ではカットのつながりを維持するために、1日に撮影できる時間が限られてきてしまう。たぶん人工照明を使えばもっと短時間で撮影できただろうが、この映画はむしろ長く時間をかけることで、登場人物たちが少しずつ親しくなっていくという関係の変化を表現できたのかもしれない。

 ただしこの映画、お話にはかなり無理があるような気がする。オーブンを借りに来た隣室の少女リタが、図々しくそのまま部屋に居すわってしまうというのが感覚的によくわからない。こうした近所付き合いが、メキシコでは普通だというわけでは決してないだろう。なにしろフラマもモコも、リタのことをそれまでまったく知らなかったのだから。リタは16歳という設定なのだが、実際にはそれよりずっと年上に見えてしまうのも問題。部屋の中には子供が3人と大人がひとりいる設定だが、それが大人と子供の2対2に見えてしまう。これはちょっとバランスが悪い。リタがモコを誘惑する場面も、少女の悪ふざけという感じが薄れて、大人の女性が子供を性的に誘惑しているように見え、ちょっと生々しすぎるのだ。

 時間の経過と共に登場人物たちが抱えている悩みや葛藤などが浮かび上がってくるという構成は定番のものだが、それらが個別の問題として宙ぶらりんなまま放置されてしまうのも、1本の映画を観終えたあとの「満腹感」に至れない理由のひとつだろう。展開に無理があろうと散漫になろうと、最後がピシリと決まればそれで映画の満足度はアップする。なんだか「流れ解散」のようなエンディングで、焦点がぼけてしまったのは残念。

(原題:Temporada de patos)

GW公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:クレストインターナショナル 宣伝:ムヴィオラ
2004年|1時間30分|メキシコ|カラー|1:1.85
関連ホームページ:http://crest-inter.co.jp/duck_season/
ホームページ
ホームページへ