マンダレイ

2006/01/27 GAGA試写室
ラース・フォン・トリアーのアメリカ三部作第2弾。
時代に取り残された奴隷農場の真実。by K. Hattori

 ラース・フォン・トリアー監督の異色作『ドッグヴィル』の続編。主人公は前作と同じグレースだが、演じているのはニコール・キッドマンからブライス・ダラス・ハワードに交代し、前作と同じ役柄の他のキャストも少しずつ変化している。これは『ドッグヴィル』と同じスタイルと世界観で描かれる、まったく新しい第2章なのだ。

 ドッグヴィルから救出されたグレースは父や部下たちと共にアメリカ南部を移動中、いまだ奴隷制度を維持している「マンダレイ農場」を発見する。白人の手による黒人労働力搾取の現場を見て心を痛めたグレースは、農場の独裁者として君臨していた女主人亡き後、黒人たちが正当な権利を取り戻すために手助けをしようと決意する。父の部下たちを借り、その威光を背景にして70年送れの奴隷解放を宣言するグレース。しかし指示を受けて働くことに慣れきっていた黒人たちは、突然与えられた自由の中で無為な時間を過ごし、自主的に働こうという気などまるで見せない。グレースは黒人たちの間で「会議」を開き、多数決で今後の方針を決めることにするのだが……。

 架空のアメリカを舞台に、ヒロインのグレースが活躍する「アメリカ三部作」の2作目だ。独裁者の圧政にあえぐ人々を救うため、武力を背景に社会改革に乗り出した主人公の姿は、イラクの独裁者を倒して民主政権を作ろうとするアメリカの姿が二重写しにされている。グレース(アメリカ)は理想主義者ではあるが、自分の理想こそが唯一絶対の正義だと信じる幼さも持っている。自分の理想主義が受け入れられないと逆ギレし、それまで庇護していた人々を皆殺しにしても良心は痛まない。

 現実を目の当たりにして自分の思い描く理想との矛盾に苦しみ、そこから現実的なアプローチで理想にいかにして迫るかを考えるのが成長というものだと思うが、自分自身の理想を唯一無二の正義とするグレースは決して現実主義的な方法をとらない。ひたすらまっすぐ理想を追い、失敗してもまた同じことを繰り返す。現実のアメリカは世界各地で自分たちの考える正義を押しつけているし(それは民主主義だったり経済の自由化だったりする)、失敗してもそれに懲りることなく同じことを繰り返している。映画の中のグレースも、ドッグヴィルの一件でまったく懲りていない。冷徹な現実主義者である父親の言葉はそれはそれで身も蓋もないのだが、それにしてもグレースの幼さはどうか。今回のこの映画では、グレースを演じるブライス・ダラス・ハワードの幼さがそれをさらに強調している。(彼女は20代半ばなので別に幼くもないのだが、『ドッグヴィル』のキッドマンとの比較の問題。)

 ポーリーヌ・レアージュの小説「O嬢の物語」の序文に触発されたという物語はそれほど衝撃的でもなかったが、それは日本もアメリカの正義や民主主義を受け入れた国だからかもしれない。我々は今、マンダレイ農場に住んでいるのだ。

(原題:Manderlay)

3月公開予定 シャンテ・シネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマ
2005年|2時間19分|デンマーク|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.manderlay.jp/
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