ウォ・アイ・ニー

2006/01/26 映画美学校第1試写室
大切なことを話さないまま傷つけあう若い夫婦。
身につまされすぎて観ていて辛い。by K. Hattori

 教習所に通うワン・イーは、同じ教習所に通う親友が婚約したと聞いて驚く。3人で夕食をとった帰り道、プールに忍び込んで水遊び。婚約したばかりの男は、ここで突然事故死してしまう。それから数ヶ月たって、ワンは死んだ親友の婚約者だったシャオジューと偶然再開する。急速に親しさを増していくふたりはやがて結婚。だが仲がよかったのも束の間。ふたりの間には日ごとに激しい夫婦喧嘩が起きるようになる。夫婦関係は完全に暗礁に乗り上げてしまうのだが……。

 製作・監督・脚本は、『東宮西宮』『クレイジー・イングリッシュ』『ただいま』のチャン・ユアン。妻のシャオジューを『スパイシー・ラブスープ』『最後の恋,初めての恋』のシュー・ジンレイが演じ、夫のワン・イーをトン・ダウェイが演じている。映画は寝室で愛を語り合う若い男女の姿から始まり、その愛情深い関係が突然の事故で唐突に終わるまでを一気に見せる。この事故死の場面はかなり衝撃的。その瞬間を直接は見せず、闇の中に響く音だけで表現している。プールの白いタイルと、その上に広がる鮮血のコントラストも強烈だ。だがこの「死」は、映画の中でその後一切何も語られない。これほどの出来事が、まるで何もなかったかのように無視されてしまうのだ。

 ワン・イーとシャオジューの夫婦は、自分の親友の死、自分の婚約者だった男の死を、触れてはならない過去の中に完全に封印してしまう。それは語ってはならないタブーなのだ。タブーとは触れてはならないものであると同時に、その存在さえ忘れられねばならない存在だ。主人公夫婦はこの「死」について、おくびにも出さない。それはふたりの間で「なかったこと」にされる。互いにそう取り決めたわけではないが、ふたりの間にその後どんなことが起きようと、そのことが決して持ち出されないほどにそれは強固なタブーとなる。

 おそらく夫婦喧嘩の遠因は、このタブーの存在にあるのだろう。ワン・イーにとって自分の結婚は、親友の「死」を踏み台にした結婚だ。シャオジューにとっても、婚約者が死んで早々にその親友と関係を持ち結婚してしまったという負い目があるのかもしれない。だが彼らが実際にどう考えていたのか、映画からはまったく窺い知ることができない。しかし彼ふたりがこの「死」ともっと真剣に向き合い、それを消化するなり乗り越えていく努力をしていれば、夫婦関係がこれほどいびつになることはなかったような気もする。だが一度タブーとされた事柄が、表に出てくることはあり得ない。ふたりの交際や結婚は、そもそも最初から間違った出発をしていたのかもしれない。

 たぶん同じような夫婦喧嘩は、世界中のどこにでもあるのだと思う。皆が何かを「タブー」にして、それに触れないまま関係を悪化させていくのだろう。この映画でタブーは「死」と結びついていた。だが日常の中にあるタブーは、もっとつまらないものなのかもしれない。

(英題:I love you)

3月11日公開予定 東京都写真美術館ホール
配給:ムービーアイ、レントラック
2003年|1時間38分|中国|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.woaini.jp/
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